皆さんは、中国の果物である竜の眼を書く竜眼をご存知でしょうか?竜眼は、ムクロジ科の常緑喬木で、中国南部の原産です。果実は丸く、果皮には茶褐色の突起があり、果実の美味しさは、私から言えばレイシには及びませんが、でもなかなかいいですよ。また皮のまま干したものがあり、薬用にも使われています。
で、この時間は、この竜眼にまつわる「悪竜退治」、それに「閻魔さまのお返し」という話をご紹介しましょう。
まずは「悪竜退治」からです。
むかしむかしのそのむかし、福建の興化湾に災いをもたらす竜が現れた。この竜は長さが三四丈(十数メートル)あり、頭には三尺ぐらいの角が二本出ていて、二つの目は提灯みたいで、数本のひげは鉄の鞭のように硬かった。そして馬鹿でかい口を開け、人々を襲ったものだ。
時は、旧暦の8月初め、その日の夜中の満ち潮とともに、この竜は岸に上がり暴れ始めたので、堤は壊され、田畑はめちゃめちゃとなり、木々と家々は倒れ、多くの人や家畜が死んだり怪我をしたりした。そこで人々は山に逃げるしかなかった。こうして竜が暴れ終わるのを待って山を降り、その後、ひどい目にあったふるさとを建て直すのだが、やっとのことで何とか暮らしていけるまでに建て直すと、次の年にこの竜がまたやってきてめちゃめちゃにしていく。こうして興化湾一帯に住む人々は散々な暮らしを十年近く続けてきた。
さて、人々の中に、歳は二十三、四の桂元という逞しく、度胸のある若者がいて、人々が竜に襲われ、自分たち夫婦の暮らしもめちゃめちゃにされたので頭にきていた。
「なんということだ!それにあの竜は毎年くるという。これじゃあ。これからの暮らしはどうなるんだ!!」
この夫の様子を見た妻が、夕食のときに酒を出し、杯に注ぎながらいう。
「そう腐らないで、お酒でも飲んで気を晴らしたら?」
この妻のいたわりに桂元は苦笑いし、杯を手にすると一息に飲んだ。そのとき、不意にいい考えが浮かんだ。
「そうだ!こうしよう!」
こう叫んだ桂元は、おかずを摘まんで口に放り込むと、そのまま家を出て行った。
実は、桂元はその足で家々をまわり、村の真ん中にある広場の小屋で待っていると、十数人の若者が相次いでやってきた。そこで桂元はいいだした。
「今夜みんなをここに呼んだのはさっきもいったとおり、かの悪い竜をどうやって退治するかだ」
これを聞いた若者たちはいう。
「桂元兄さん。俺たちでどうやってあの竜を退治するんだい?」
「おいらには考えがある。そこでみんな聞いてくれ。あの竜は毎年八月の満ち潮のときにくるだろう?」
「うん。まちがいない」
「そこで竜が来る前にみんなで刀や槍をつくり、丈夫な縄を編み、岸辺に深い落とし穴を掘るんだ。そして強い酒にしっかりと漬けた豚や羊を置いて、竜を引き寄せるんだ」
「竜を酔っ払わせるのかい?」
「そうだ。竜が酔っ払ったら、隠れていたおいらたちがいっせいに飛び出て、刀や槍で竜を殺すんだよ。相手は酔っ払っているから、何とか殺せると思うけど」
これを聞いた若者たちはしばらく考えていたが、そのうちに言い出した。
「桂元の言うとおりだ。そうすれば、何とかあの竜をやっつけることができる」
「そうだ!そうだ!」
こうして、みんなは桂元の言うとおりに、それぞれ動き始めた。
さて、時は次の年の八月の満ち潮が来る日の夜中。桂元は若者たちを率いて、海辺の岩の後ろに隠れていた。もちろん、竜のための落とし穴を二つ掘り、そのうちの一つは竹槍の尖ったほうを上にして穴の底にしっかり差し込んだ穴だった。しばらくして満ち潮が始まった。いつもなら東の空が明るくなるのだが、どうしたことかこの日の空には黒雲が立ち込め始めて暗くなり、怪しい風が吹き出した。
そして海は荒れ始め、恐ろしい鳴き声が遠くから伝わってきた。これに桂元は「竜がきたぞ!」とみんなに声をかけたので、若者たちはそれぞれの得物をしっかり握った。
すると、かの竜が海から顔を出して岸にあがり、近くに十数匹もの豚や羊が転がっているのをみつけ、大きな口をあけて呑みこみはじめた。それが終わると、今度は、ひっくり返ってそこら中をごろごろと転がり始め、大きな尻尾を振り回した。おかげで周りの家や木々はめちゃくちゃになった。
これを見て桂元は、竜は酒に漬けた豚や羊を飲み込んだものの、酔いがまだまわってきていないのを見ていくらかあせった。しかし、自分はあわててはならないと思い、自分を落ち着かせてから、一緒にいる若者たちをなだめた。しばらくして竜は疲れたのか、今度は首を上げると不意にぐらりと頭を振り、近くの上からはわからなく、底に何もない落とし穴にドーンを落ちてしまった。
「それ!いまだ!」と桂元は若者たちを連れて岩の後ろから飛び出し、その落とし穴に来てみると竜は酔っ払ったのか、穴に中でぐったりしている。これを見て桂元は「それ!」と声をかけたので、みんなはいっせいに穴に飛び降り、得物を振りかざして竜に力一杯切りつけたりした。これに竜はびっくり。一度に酔いが半分醒めてしまったように暴れだした。実は竜のうろこはかなり固く、若者たちが刀で切りつけたり、槍で突きつけても、竜に怪我をさせることはできない。こちら怒った竜は、大きな口をあけて若者たちに襲い掛かってきた。こうして数人の若者が怪我をしたので、これは危ないと悟った桂元、自分の得物である槍をかざして飛び上がり、竜の目を思い切り挿した。すると、ものすごい鳴き声と共に竜の一方の目玉が血だらけになってポロリと落ちたではないか。片目をやられた竜は驚き、今度は死に物狂いになって海のほうへ逃げようとした。これを見た桂元、逃がすものかと必死になって追いかける。
こちら竜は片目をなくし、それに酔いもかなり残っているので、思うようには逃げられない。こうして竜に追いついた桂元が槍で竜のもう一つの目を挿そうとして、なんと竜の首にのぼったとき、竜は竹槍をたくさん底に差し込んだ穴の近くに来ていた。そして竜は首にかじりついた桂元を振り放そうとして、なんと桂元と共にその穴へ落ちてしまった。これを見て若者たちは桂元の名を必死で呼んだが、応えはなかった。そこでみんながその落とし穴に行ってなかを見ると、桂元は竜と共に、鋭い竹槍で体を貫かれ、息絶えていた。もちろん、竜も助かるはずはない。
こうして悪い竜は退治したものの、若者たちを率いて竜と戦った桂元が死んだので、人々は桂元を記念するため、かの落とし穴の近くにお墓を立て、そばに桂元が槍で突き落とした竜の目を埋めた。
さて、次の年、かの竜の目を埋めたところからなんと二本の木の芽が出てきて、その後育ちはとても早く、数年後には大きくなり、たくさんの実がついた。そこで若者たちがこれは何だと実をもぎって皮をむき、勇気を出して食べてみると、それはとてもおいしかった。それに皮をむくと、実は竜の目によく似ていたことから、みんなはこれを竜の目という意味の竜眼と呼んだ。そのご、この竜眼は最上等の果物とされたという。
閻魔さまのお返し
今度は清時代のお話です。題して「閻魔さまのお返し」
静海県に紹さんという読書人がいた。紹さんは家が貧しかったが、この日は母の七十の誕生日というので、町で美味しいものを買い、先にそれを庭にある小さな壇の上に供え物として置いた。そしてその前にひざまずき、地面に叩頭して頭を上げると、なんと、壇の上の供え物がすっかりなくなっていた。
「ありゃ?いったいどうしたんだ?」と紹さんは首をかしげたが、なくなってしまったのでどうしようもない。そこで考えた挙句、部屋に入って母にこのことを話したあと謝った。これを聞いた母は、親孝行者の息子のことだから、どうせ自分を喜ばせようと思って話しているんだろうと思い、ニコニコしながら「お前の気持ちはわかるよ。ありがとうよ」と答える。これに紹さんは、母が自分の話しを信じていないと察したが、どうにもならず、悲しい顔をして黙ってしまった。しかし。紹さんは、このことが頭に残り、いつかは何とかして母に喜んでもらおうと思った。
さて、その一ヵ月後に、都で官吏になるための試験をやることになった。そこで紹さんは友達から何とか金を借り、都に向かった。
そして、都への旅の途中で、一人の男が道端に立っており、紹さんがくるのを見て、行儀よく声をかけてきたので紹さんは少し驚いた。
「あんたはいったい誰だい?ここで始めて会う私に何か用かい?」
「いえいえ。お前さんとははじめて会うのではござらん。一度会っておりますよ」
「え?会ったことがある?そうかなあ?」
「ま。それはあとにしましょう。実はうちの主があんたに会いたいといいましてね。私はここであんたを待っていたというわけでね」
「ええ?あんたの主?誰のことです?」
「まあ。会えばわかるはず。それにどうしてもあんたに来てくれということでね。なに、そんなに手間はかけませんよ」
こういわれて紹さんは、引っ張られるような感じでその男についていった。こうしてある楼閣に入っていった。すると真ん中の殿堂の中にすごいひげを生やしたお偉方がすわっているので、いくから怖くなった紹さんは、あわてて跪き叩頭したところ、そのお偉方はなんと席を立ち、自ら紹さんを支え起こし、隣の部屋に用意してあった宴席に招いた。これには紹さんきょとんとしている。
そこでそのお偉方は、紹さんに座るよういうので、紹さんが言われるがままに座った
「紹どの。驚かれたことだろうが、実はわしの部下がこの間、あんたの家を通りがかり、腹をすかしていたので、そこもとの庭の壇に供えたものを食べてしまったのでござるよ」
「え?庭に壇に供えたものを?」
「いかにも」
「そうだったのですか?私もあの時はびっくりしました」
「いや。いや。黙って人のものを食べてしまい、わしもこのことを知ってから、その部下をこっぴどく叱りつけましたが、どうか、その部下を許してやってくだされや」
「それはいいですけど」
「わしは知っておる。あの日はそこもとの母の誕生日だったということを」
「そうですか」
「実にすまないことじゃ。そこもとの母にすまない。あ、そうそう、言い遅れたが、わしは四殿の閻魔でしてな。さ、今日は少しの酒と肴を用意したので、存分に召し上がれや」
こういわれ紹さんは、すでに怖さは感じなくなっていたので、出された酒や肴を遠慮がちに口にし始めた。これを見て閻魔さまも安心したのだろう。自分も飲み食いし始め、紹さんの杯に酒を注いだりする。
こうして飲み食いし終わったので、閻魔さまは小さな袋を懐から取り出し、紹さんに渡した。
「これは路銀にしてくだされや」
紹さんこれを受け取り、礼を言ってその楼閣を出たとたん、楼閣はふと消え、そこは森の入り口であった。これに紹さん驚いたが、酒肴は本当に口にしたし、かの袋を開けると確かに銀貨が入っているので、少しも迷わず、旅を続けた。こうして都でのことを終えた紹さんだか、かの袋には半分の銀貨が残っていたので、それを使って母にたくさんお土産を買って帰途についたわい。
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