「あんた、できものを治せるのかい?」
「ああ、できものなら何でも治しますよ」
「しかし、あんたも足がわるいね」
「いや、これは別ですわい」
「ほんとに治せるのかい」
「そんなことをいわず、あんたのできものをまず見せなさい」
「そりゃあ、いいけど」と男は、首をかしげながらも自分のできものがある足をみせたところ、医者は「ああ。これなら治せますぞ」と薬箱の中から黒い紙に黒い脂薬(あぶらぐすり)を塗った膏薬を取り出し足に貼った。
「このまま、三日ほどおとなしくしていなさい」というので、男はいくらか薬代を払ってまた宿に戻り、半信半疑で三日間おとなしくしていた。するとどうだろう、これまでずいぶん金を遣っても治せなかったできものがすっかりなくなったではないか。男は長年の苦しみがなくなったので大喜び。もちろんこのことを言いふらした。これを耳にした同じ病で苦しんでいた人は、それでは自分もと、次の日からこの足の悪い医者のいる橋のたもとに来た。これに足の悪い医者は驚く様子もなく、やはりかの膏薬で病人たちの足を次から次へと治していった。こうしてこの足の悪い医者はいっぺんに名が知られるようになり、みんなは彼のことを「足の悪い名医」と呼ぶようになった。
さて、このことがあってから杭州では、これまで名医と呼ばれていた医者の元へかよう患者も少なくなり、いくつかの老舗の薬屋に行く人も減ってきたので、これはいかんと、ある日、これら医者と薬屋が集まり、なんと銀一千両という金を出しあって杭州の長官に送り、この足の悪い医者を杭州から追い出してくれるよう願い出た。
金を受け取った長官は、それは容易なことだと手下をやって、かの足の悪い医者にありもしない罪をかぶせ、牢屋にぶち込んでしまった。そして次の日に調べを受けさせるため、長官は足の悪い医者の取調べにかかり始めた。
「ばかもん、わしは杭州の長官じゃ、早く跪かんか!」
「はい。私は足が悪いのでうまく跪くことができません」
「なんじゃと?ふーん。お前はなんという奴でどこから来た!」
「私には名前はありませんが、みなさんはわたしのことを足の悪い名医とよんでくれます。で、どこから来たかといわれましても、実はわかりませんので・・」
これを聞いた長官、はじめは苦い顔をしていたが急に笑い出した。
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