中国では、ここ4ヶ月、豚肉の価格が下がり続け、今年初めに比べて30％も下落しました。下落幅は、ここ数年では珍しい大きさとなっています。この影響を受けて、中国の養豚業が困難に直面しており、各地では、様々な対策が実施されています。

　中国は、豚の飼育数と消費量が世界で最も多い国となっています。しかし、今年春から、新型インフルエンザが世界中で広がり、中国の養豚業もその影響を受けました。この新型インフルエンザは最初、豚から人へ感染したものとされていたことから、「豚インフルエンザ」と呼ばれていました。それで、中国では、豚肉は危ないと思って食べない人が増え、消費量は急に下がりました。その後、世界保健機関が、この新型インフルエンザは、もともと豚に発生するインフルエンザウイルスが性質を変えて、人から人に感染しやすいようなウイルスになったものと確認し、その名前を「豚インフルエンザ」から「インフルエンザA型H1N1」に変更しました。そうしてから、人々は、豚肉は安全だとわかり、消費量が徐々に上がってきました。

　北京の南の郊外には「新発地」という市場があって、北京で最も規模の大きい、農産物の卸売市場です。ここでは、1日に大体1000頭の豚が売買されています。ここで10年も働いている張さんによりますと、新型インフルエンザの影響で豚肉の価格は確かに落ちていますが、売買される豚の量は昔と比べ、とくに変わりはないということです。

　「最近は、わりといいですね。ここで売っているのは、全部、国の基準をきちんと守って生産された肉製品です。売る量を見れば、去年のこの時期よりも多い。1日はだいたい7、8頭、合わせて500キロでしょうか。すぐ売れてしまう、という感じです」(張さん)

　市場で統計を担当する劉さんは、このように話しています。

　「政府の新型インフルエンザ対策はとても透明度があり、効果も表れているので、養豚業者は市場に自信があり、消費者も安心して豚肉を食べています。ですから、新型インフルエンザの影響は弱まっている、といえるでしょう」

　ところで、豚肉価格の下落について、中国社会科学院の李国祥研究員は、過剰な供給や金融危機なども原因だと指摘しています。

　「個人的な考え方ですが、豚肉の供給はやや多い傾向にあると思います。あと、毎年の4月から10月までは、いつも豚肉の消費量が少なく、今年は金融危機もあるので、供給に対して需要がいつもより大分減ったのではないかと思っています」(李研究員)

　実は、この2、3年、中国の養豚業は大きく変動しています。2007年5月から豚肉の価格が大幅に上昇し、大きな利益を狙って、多くの人が養豚業に取り組みました。その中で、国際的な投資会社が、巨額の資金を投入して中国で養豚場を建設、経営することもありました。しかし去年末、豚肉の供給が増える中で金融危機が発生し、消費者の需要が減少しました。供給が需要を大きく上回るという問題が、ますます深刻になってきました。

　中国東部の江蘇省で子豚の飼育と販売に取り組む企業、潤達子豚飼育場の販売担当の胡さんは、豚肉価格の下落で子豚の売れ行きも悪くなったと、次のように話しています。

　「養豚業者は、豚肉の価格が低くなるほど損するので、子豚を昔のように買わなくなりました。去年の秋、豚肉の価格が高かったとき、みんな我先にと豚の飼育数を増やしていました。しかし、そうしているうちに供給の量が大きすぎるようになって、逆に価格が落ちてしまいました」

　統計によりますと、中国では今、飼育されている豚の数は4億5000万頭に上っており、これは、必要とされる数を10％もオーバーしています。その中に雌の豚はおよそ5000万頭で、必要の数より20％も多いということです。これにより、豚肉の供給が需要を上回るという状況が一層深刻になり、価格がさらに下落していくと予測されています。

　これを受けて、中国発展改革委員会などの政府機関は養豚業者に対して、即時に調整をするよう呼びかけています。それとともに地方政府も、価格の大幅な変動を防ぐため様々な対策を行っています。四川省では、豚肉の飼育・販売業者を支援し、その販売ルートの拡大に取り組んでいます。湖北省は、飼育数を減らすとともに、豚の品種の改良を進めています。また、湖南、河南、河北などでは、市場を監視し毎日報告する制度を取り、豚の飼料つまり「えさ」のコストが大幅に上がる場合、豚肉を冷凍して備蓄したり養豚業者に補助金を出したりすることにしています。

　中国社会科学院の李国祥研究員は、各地で対策が進められるにしたがい、豚肉の価格は上がってくるとの見方を示しています。

　「いまのような状況は一時的なものだと思うので、もうしばらく待ちましょう。今年の末頃には、景気が回復すれば、人々の収入が増え、消費の良い時期がやってくると思います。そのとき、豚肉の供給と需要がバランスを取れ、価格が上がってくることが期待できるでしょう」(李研究員)

　最新の統計によりますと、中国の豚肉価格は安定する兆しを見せており、一部の地区では上がっているということです。