今度は清代の怪異小説集「聊斎志異」から「蛇のお寺」です。
山東泗水県の山里にあるお寺があった。ところがその周りには家がなく、ここら一帯は一本の道しか通っておらず、このお寺には一人の道士が住んでいた。
そして、人々はこのお寺には多くの蛇が棲んでいるといい、旅人や遊びに来た人はこのお寺には近づかない。
と、ある日、一人の少年が山に登り、帰る途中で迷子になったので、慌ててあっちこっちを歩いているとこのお寺が目に入った。少年は山の中で夜を明かすのが怖くなり、早足でお寺の門のところに来た。そして戸を叩くと、中ならどうぞという声がしたのでこわごわと中に入ったところ、一人の道士が出てきた。
「おお、お若い方、こんなときにどうしてここへ?」
「あの・・、迷子になったので今夜ここに泊めてください」
「ああ、よろしいよ。でもお若い方、わしの子供たちに見つからずよかったのう?」
これに少年はキョトンとした。
「ええ?道士さまの子供たち?」
「まあ。お若い方、お腹を空かしているであろう。先に腹ごしらえしなされ」
そこで腹を空かしていた少年は、部屋に入ってお粥などを食べだしたが、そのときこの部屋に大きな蛇が入ってきた。これに少年はびっくり。声も出ないでいると、蛇は頭を持ち上げ、長い舌を出しながら怒ったように少年をにらんだ。少年は恐ろしくなり、逃げ出そうとしたが、道士はそれを止め、蛇に「あっちに行け!」といいつけたので、蛇は急に頭を下げて部屋から出て行った。そして隣の部屋に入り、トグロを巻いて静かにしていた。こちら少年は怖さが去らず震えだしたが、これを見た道士はいう。
「私がいる限り、安心して休みなさい」
これに気を直した少年がまた粥を食べだすと、今度はさっきより少し小さい蛇がこの部屋に入ってきて、少年を見ると目を光らせたが、道士がさっきように叱りつけると出て行き、隣の部屋にかの蛇がいるのを見てこの蛇は梁にのぼり休んだ。
こうして少年はこの夜はお寺に泊めてもらったが、怖いので疲れているにもかかわらず、あまり眠れなかった。
翌日の朝、少年はこのお寺からいち早く離れたいので、別れの挨拶をするため、道士が寝起きしている部屋にむかったところ、近くの廊下や階段のいたるところに多くの蛇がいる。驚いた少年が、あわてて道士のいる部屋に行くと道士は自ら少年を外まで送ってくれた。そこで少年は、何とか帰る道を探し必死になって家に戻った。
さて、数日後にまたも河南からきた旅人が山で迷子になり、やっとのことでかのお寺にたどり着き、一晩泊めてもらうことにした。しかし、そのお寺にいたのはかの道士ではなく、一人の老人だった。この老人は旅人がかなり腹を空かしているのを見て早速飯を食べさしたが、おかずといえば肉の入った汁物だった。それにその汁物に鶏であろうか、骨がついた首肉らしいのが入っていてとてもうまいときている。旅人はこれに、「すんませんなあ。こんなにうまい鶏肉をたらふく食べさしてもらって」と礼をいう。
「いや、それは鶏肉ではござらん。蛇の肉じゃ」
この老人の答えを聞いた旅人はびっくり。蛇の肉などこれまで口にしたことがないので、急に気持ち悪くなり、慌てて部屋を出ると庭の片隅で食べたものを吐き出した。しかし、このとき、夜は遅く、このままお寺を離れるわけには行かないので旅人は何とかある部屋で休むことにした。旅人は気持ちが悪いのでなかなか寝られなかったが、疲れていたのでそのうちに寝てしまった。
で、夜半になって部屋の中で物音がするのでこれに目を覚ました旅人が明かりをつけると、なんと多くの蛇が部屋の中でとぐろを巻いているではないか?驚き慌てふためいた旅人は悲鳴を上げてその部屋を抜け出し、かの老人がいる部屋に駆け込んだ。そこで老人はいう。
「実はこの一帯は昔、蛇に悩まされましてな。のちにある和尚様が方術で蛇を退治し、このお寺の下に押さえ込んだのじゃ」
老人はこういうと、ふと消えてしまったそうな。驚いた旅人は慌ててお寺を離れたワイ。
そろそろ時間のようです、では来週またお会いいたしましょう。
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