比較の視点から読み解く中国の民法典 ~JICA長期専門家・白出博之さんに聞く(上)

2021-03-16 12:21  CRI

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聞き手:王小燕

 中国では2020年の全国人民代表大会(全人代)で中国初の「民法典」が採択されました。この法律は今年の1月1日から正式に施行となりました。
 中国は現代化国家の法整備の歩みにおいて、日本を含む世界各国の先進な経験に学び、各国と交流をしてきた歴史があります。「CRIインタビュー」は11年にわたって、中国の立法機関である「全人代」との交流事業に携わってきた日本人専門家、白出博之さんに3回に分けて、分かりやすい法学入門講座の形でお話を伺ってまいります。1回目は、比較法の視点から読み解く中国の民法典についてです。

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白出博之さん(2021年3月10日、王小燕撮影)

◆ 中国初の「法典」と命名される法律

――本題に入る前に、まず、「民法典」という言葉そのものの日本語でのニュアンスについて教えて下さい。

白出 日本では法律と接する機会の少ない一般の方が、「法典」とだけ聞くと、世界史の授業で勉強した「目には目を歯に歯を」で有名な古代のハムラビ法典や、近代法ではフランスの「ナポレオン法典」等を思い浮かべるでしょう。日本では「六法全書」が法令集の代名詞になっていますが、この六法というキーワードは、憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法の6つの基本法のことを指し、歴史的に言えばフランスの「ナポレオン法典」に由来すると言われています。つまり、「法典」と聞くと、複数の法律が集められたものというイメージが強いと感じます。

――中国語では、「法典」という命名される法律は、今回の「民法典」が初めだと聞いております。「典」がつくことで、自ずと重みが違ってくるという感じもしますが……

白出 民法典編纂作業が開始される以前において、中国には統一的な民法典は存在しておらず、実質的意義の民法としては、歴史的な順番でいうと、主に婚姻法、相続法、民法通則、養子縁組法、担保法、契約法、物権法、権利侵害責任法等の民事単行法から構成されていました。

 そして今回の民法典の成立、施行に伴い、上述した8本の法律及び2017年成立の民法総則の9本が、民法典の中に組み込まれることから、民法典の施行と同時に廃止されています。

 ここで注意が必要なのは、2015年3月から開始された今回の民法典の編纂作業は、現行法律の単純な合体・編集作業ではなく、また完全に新たな民事法の立法・制定でもなく、現行の民事法規範に対して編集・補修を実施し、既に現実の状況に適応していない規定について修正・整備・廃止を行い、経済・社会生活において出現した新たな状況や新たな問題に対して的を絞った新たな規定を制定することでした。

 このような編纂作業の内容からも明らかなように、民法から民法典に変わることに込められた意味としては、もはや単なる一つの法律とは異なった法規範へと質的な変更があったこと、民事法律規範が体系的に整理され統一された結果として、一般の法律よりもグレードの高い法規範ができあがったことを示し、かつそれを強調する点にあると思います。

◆民法は現代国家法体系の重要な構成部分

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――そもそも「民法」は現代国家の法体系において、どのような位置づけですか。

白出 まず、法律は大きくは、公法と私法という2つに大別されます。

 公法とは、一般には、国家と国民の関係の規律および国家の規律を行う法を意味します。イメージ的に言えばタテの関係であり、具体的に言えば刑法、行政法の分野です。隋、唐王朝の時代に、日本から多くの留学生が派遣されて中国の律令制度を学びましたが、そこでいう律令というのはまさに刑法、行政法に相当するものでした。

 これに対して、私法は、個人と個人の私的な生活関係を規律する法であり、イメージ的には対等な民と民の、ヨコの関係です。その代表がまさに民法であり、民法は私法の一般法と位置づけられ、近代市民法の重要な部分とされています。

――ところで、中国よりは一歩早く近代化の国造りを初めてきた日本では、民法がどのような歩みで制定されましたか。

白出 日本における民法の歩みの要点を指摘すると、日本の現行民法は、財産法が1896年に、家族法が1898年に制定され、共に1898年から施行されたものです。

 当時の日本政府、すなわち明治政府が民法典制定を必要とした理由ですが、欧米諸国との間で締結されていた不平等条約の撤廃を要求するための施策の一つとして、国内に統一的な私法規範を制定することが急務とされたものでした。

 そこで明治政府は、パリ大学のボワソナード教授を招聘して、民法典の草案を起草しましたが、その内容はいわば「フランス民法典の日本版」でした。しかしながら、そのような自由主義的な思想は、特に家族法分野について当時の日本の国情に合致しないため、「民法出でて、忠孝滅ぶ」等と批判され、大論争が展開されました。このため、ボワソナード指導の下に編纂された1890年公布の民法典(旧民法と呼ばれます)は、施行されずに廃止され、上述の1898年の現行民法典(明治民法とも呼ばれます)ができあがったという経過です。

 その後、第二次大戦後にできた日本国憲法に合致するように、1947年に家族法の部分については、家制度の廃止や夫婦平等原則の導入など根本的な改正が行われましたが、財産法に関して大改正は行われていませんでした。そして債権関係分野については、既に100年以上かけて日本の実務が形成されており、判例の形で蓄積されてきたルールを条文として明文化するなどの120年ぶりの全般的な見直し作業が行われた結果、2017年5月に民法の一部を改正する法律が成立し、2020年4月から施行されているところです。

――日本でも民法は公布された後、時代の変遷とともに改正が行われているという歴史がありますね。ところで、中国では67年前からの悲願であった民法典は、2020年の全人代年次会議で採択されましたが、このことが中国の法整備における意義について、白出さんはどう評価しますか。

白出 まず中国の民法典編纂の歴史を振り返ると、「五」という数字と縁があることを、法工委民法室の黄薇主任がコメントしています。すなわち、第1に、中国ではこれまで1954年、1962年、1979年、2002年に民法典の起草作業が行われていましたが、残念ながら完成には至らず、今回の民法典編纂はまさに5回目の挑戦であったこと。第2に、編纂作業には2015年3月から2020年5月まで5年間の歳月を要したこと、第3に5月に採択・公布が行われたことです。

 次に中国の法整備全体にとっての意義ですが、その位置づけを確認すると、 2014年10月、中国共産党の第18期四中全会「憲法を核心とした法に基づく国家統治の全面的推進」決定において、その重点的な立法課題の一つとして民法典編纂が提起されたものでした。すなわち、中国において統一された民事基本法が制定・実施されることは、憲法を核心とした法に基づく国家のガバナンス、法治国家、法治社会の建設・実現に重要な基礎を提供するものといえます。

 さらに中国における法整備という技術的な側面に注目していえば、今回、民法典という一般の法律とは質的に異なった、よりハイレベルな法規範に編纂する立法作業の手法が確立することは、体系化の立法作業、すなわち中国国内の各レベルに多数存在する法規範を体系的に整理・統一した立法をすることに極めて有用な手法になると思います。これは同時に法律、法規における重複や矛盾抵触等の問題を解決し、既に時代遅れになった規定を整理する作用も期待できます。

つづく

【プロフィール】

白出博之(しらで ひろゆき)さん 

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 日本の政府開発援助事業(ODA)である法整備支援プロジェクト実施のために、日本国際協力機構(JICA)の長期専門家として、2011年1月から中国北京に派遣。その後、約11年にわたって「橋渡し・調整役」として中日法律交流事業に関わる。
 その仕事ぶりが評価され、2019年に世界31カ国の外国専門家100名の中の一人として、中国政府友誼賞を受賞。

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