「北方の穀倉」を守る緑の騎士～三北防護林プロジェクトの40年

　肥沃な黒土、果てしなく広がる平野、温潤且つ湿潤な気候、中国の東北地方を訪れると、何故、この土地が「北方の大きな穀倉」と呼ばれてきたのかをしみじみと感じることができます。しかし、この中国の重要な穀物生産地区は、生態環境が破壊されたことにより、大幅な減産の危機に面したことすらありました。そして、その危機の一方では、「三北防護林プロジェクト」、すなわち、東北地区、西北地区、華北地区の三つの地区に跨る人工造林プロジェクトが、この中国の北方の穀倉を衛る緑の騎士としての存在感を強めてきました。

　「俺の小さなころの東北ってのは、『ノロは棒で狩り、魚は柄杓で捕り、キジは鍋に跳びこむのを待ってればいい』という風景がよく見られるところだったもんだ」とは、チチハル市拜泉県丁泉溝村で農家を営む今年63歳の温尽荘さんの言葉ですが、彼のいう光景は、以前東北地方で伝わる諺の一つで、東北地方の物産の豊富さをリアルに描写したものです。

　温さんによれば、1970年から1980年代にかけて、政府が穀物の増産計画を実施したことで、耕地の土壌が深刻に悪化し、畔には樹木は一本も生え無くなったと言います。その後、暴風や水害など被害が急劇に増え、播いたばかりの種も翌日の大雨に押し流されてしまうこともしばしばで、春などは、種を播けばすぐ暴風に吹かれ、タネを播いては飛ばされる日々が続き、非常に困ったそうです。

　伝統的な生産方式はその生産量を極度に追求するサイクルをとっていました。そのため、東北地区では耕作を繰り返し、土地を休ませることを軽んじるという、略奪的な生産方式を続けました。何期にもわたるそうした営みは、黒土の退化と土壌の流失をもたらし、土地は見る見る間に荒れて行き、今世紀初期の調査では、東北地方の黒土地区はその85％が養分の不足した状態にありました。そうした痩せた土地で、肥料を使用せず、土壌の天然の回復力にのみ頼った場合、その生産量は1950、60年代に遥かに及ばぬ状態になっていまいます。

　東北地方の黒土地区は中国の最も重要な穀物生産地であり、中国の商品穀物の総生産高の30%、大豆の総生産高の40%、トウモロコシの総生産高の50%を供給しており、中国の穀物生産の安定剤とも言える存在です。この重要な穀物生産地を衛り、食糧の安全を確保するため、中国は1978年から東北地方、華北地方、西北地方にまたがる「三北」保護林プロジェクトをスタート、東北地方の土壌流失への対処と生態バランスの再建に乗り出します。

　温さんの住む拜泉県は、もともと巴拜泉と呼ばれていました。巴拜泉はモンゴル語で「貴重な泉」を意味する言葉で、その土地の水と緑が豊かで美しい環境を表した名前ですが、その美しい環境で育った温さんは、1980年代から故郷の肥沃な土地が荒れ地へと変化していくのを目にし、プロジェクトに参加するようになります。温さんは「その時から、村民たちはより大きな暴風や水害が自分の家を破壊するのを懸念して、政府の呼掛けに応じる形で三北プロジェクトの植樹造林活動に積極的に参加し始めた」と語ります。

　三北防護林プロジェクトの開始後、地元では植樹と造林を行うと同時に、耕地還元や環境保全のための樹木の伐採や放牧を一定期間禁ずるなどの措置を講じて来ました。これが奏功して、2017年末には、拜泉県の累積造林面積は7万4600ヘクタール、耕地還元面積は2800ヘクタールに達しました。そして、そうした動きが効果を上げたことから、拜泉県は全国三北防護林建設の先進県、全国生態農業建設の先進県に選ばれるようにもなりました。

　温さんは「我が家のトウモロコシの出来高は1980年代の１ムーあたり75キロから今の750キロにまで向上し、大豆の出来高も１ムーあたり150キロの水準になった。それに化学肥料や農薬もほぼ使わなくて良くなった」と語ります。

　国家林業と草原局によりますと、この40年に三北防護林プロジェクトが実施された地区の緑化率は1977年の5.05％から今の13.02% にまで伸び、土壌流失の防止措置も著しい成果を収めているということです。実際に測定した結果でも、耕地防護林の保護作用により、穀物の1ムー当たりの出来高が15%から20%増えているということです。

　今、拜泉県の農村地区を訪れると、整然と並ぶ人工林は果てしなく広々とした耕地を囲い込むように保護し、青々と茂る耕地の生気に満ちた光景が一面に広がり、「掴むと油が滴る」と言われた黒土が日差しの下に輝く様子を目にすることができるでしょう。