ダイ族の集落・ガンランバーは夜になれば、棕櫚の葉影に、どっしりとしたオレンジ色の月が昇り、実に美しい眺めでした。
なるべく多くの人たちと話をするため、私たちは夕食と宿泊を別々の家で取ることにしました。宿泊先の家では、陽が落ちるのに連れ、次から次へと村人が集まってきました。ついには母屋に溢れんばかりの人になり、竹楼の玄関にはサンダルやスリッパの海ができました。そこで、タイのVCD映画の放映が始まりました。機知に富んだ農民が主人公。一座は大笑いしながら、画面の画面にくぎ付けになっていました。
30代の女性・玉波さんに「毎晩集まっているの」と聞くと、「違います」とその理由を説明してくれました。
「この家の長男が昨日、事故で足の骨を折ったので、そのお見舞いにやってきたのだよ。村では誰かの家に病人が出たら、必ず金品を持ってお見舞いに行く習慣がある」と。
長男さんは30代前半。二児の父親で地元の木材工場に勤めています。仕事中の事故だったため、工場からは若い同僚たちが大勢付き添って来ました。彼らはダイ族、プーラン族、イー族とまちまち。省内の他の県からシーサンパンナーに出稼ぎに来ているようです。
私も近くに寄ってみたら、膝の部分がかなり腫れています。しかし、手当てを受けた気配はありません。軽症 かも知れないと思いましたが、一日経ってもかなりの痛みを訴えています。
(左)玉波さん
(右)集まった村人たち。
親切な玉波さんが、事情を説明してくれました。
「このラオボータウは数年前に難病にかかり、誰もがもう死ぬかと思ったのに、不思議と病を克服しました。それ以来、彼は医者になって、病気の治療を始めたわけよ。私の従弟も肝臓ガンにかかったんだけど、20日間病院に入院しただけで2万元もかかったの。そればかりか、治療できないと言われ仕方なく家に戻ってきました。ラオボータウのお陰で、1年後の今、もう一人で働けるほど体力が回復したのよ。おまけに、謝礼はわずか800元でした」。でもどう見ても、信じられない怪しい話でした。そうするうちに、噂のラオボータウが姿を現しました。しかし、インチキくささはまったく感じられない、極普通の中年男性でした。
彼は患者の近くに座ると、周りとおしゃべりをし、テレビも見たりしていました。周りの若い人は次から次へとお酒を注ぎ、その度に彼は飲み干しました。地元では、目上の人に尊敬の気持ちを現す時、お酒でもてなすようです。少し時間が経ち、落ち着いてきたのか、彼は病人の近くに場所を移動しました。お猪口を片手に、もう一方の手を患部に翳し、目をつぶって、呪文を唱え始めたのです。
治療風景
1分ほど経つと目を開け、フーッと口からお猪口に空気を吹きかけ、それを患者に差し出しました。病人がそれを受け取り飲み干しました。酒を飲み終えた後、ラオボータウは懐から小な袋を取り出しました。植物の葉です。それに酒を加え混ぜあわせ、布切れに平らに広げた後、患部に巻きつけました。この後、もう一度呪力を入れた酒を作り、患者に飲ませました。これが治療の過程でした。治療が終わり、ラオボータウとお話しすることができました。怪しげなイメージとは打って変わって、なかなか機知に富んだ、明るくて、面白いおじさんでした。
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