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着物デザイナー・川瀬至さん

2011-07-06 14:17:31     cri    

着物デザイナー・川瀬至さん (明治16年創業「竹紫苑」四代目)

――着物の魅力 中国の皆さんも体験して!

 この8月24日~25日、中国人観光客の誘致を目指す「京都文化観光北京使節団」による「京都の魅力をPRするイベント」が北京で行なわれます。京都の伝統工芸や伝統文化に関わる中小企業経営者が参加、出展する予定です。
 イベントでは、使節団団長を務める着物デザイナー・川瀬至さんが、自ら考案した着物「都舞手」(つぶて)によるショーが行なわれ、着物の着付け体験のコーナーも設ける予定です。
 初めてでも、少し練習すれば3分間ほどで着られるようになるという「都舞手」。考案から3年ほどで約1000着も売れ、京都市主催のみやこユニバーサルデザイン賞も受賞。これまでは、国内は北海道から沖縄まで、海外ではハワイや上海万博の実演ショーでも使われました。北京にお目見えするのは、今回が初めてといいます。
 どのような気持ちで出展を決めたのか、「着物」にこめた思いについて、川瀬さんに聞いてみました。

























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◆  ◆

――この夏に北京で行なわれる京都をPRするイベントでは着物の着付けコーナーがあるようですね。

 はい。私は、NHKのテレビドラマに出演した俳優の方が、大阪の中座で公演された時、舞台衣装を担当したことがきっかけで、北海道から沖縄までずっとイベントを行ないました。
 実は、日本人の中には、着物を着たくても着られない方が、どんな統計でも大体60%います。
 原因は色々あります。まずは一人で着れない。車でいうなら、運転ができない。それでは、着物はこれから廃れる一方ではないかと思って、誰でも着れる着物を作りたい、と。しかも、伝統に則った枠の中で着物が着られないかと思って考案しました。

――「都舞手」という言葉の意味は?

 京都の都踊り(みやこおどり)が舞うがごとく、その手でさっと着られる着物という意味です。結構かわいいでしょう(笑)。

 
 (写真提供:竹紫苑株式会社カワセ)

――「都舞手」はパっと着れる着物だと聞いていますが、どのぐらいで着られますか。

 実は、京都の近畿放送で取材を受けた時、ストップウォッチで測ってみましたが、その結果、着物がまったく着られない人でも、4回練習すれば、女性の場合は2分32秒、男性の場合は1分ぐらいで着れるという結果が出ました。

――そこまで速く着られるコツは?

 着物を着る時には、難しいポイントがいくつかあります。お端折(おはしょり)の作り方とか、帯の太鼓の持ち方など、ポイン、ポイントがある。その難しいポイントを全部前もって作っておく。苦労せずに簡単にできるようにする。単純に申し上げると、そういうことですね。
 "都舞手"は車椅子等に座っている障害者の方たちにも着ていただけるようになっていますので、すべての人が興味をもって着ていただけるものになってるという自負があります。

――とても簡単そうに聞こえますが、やはりそこにたどり着くまでにずいぶん時間がかかったのではないですか。

 そうですね。私はもともと、今の着物の着付けを否定するのではなく、むしろ今の着物を着ていただくことを推奨したいんです。ところが、たいへんなんですね。学校でいうと、大学や大学院の勉強になるのではないでしょうか。最初からそこに入学するのはたいへんなことなのです。
 ですから、まずは、義務教育から始める必要があります。「都舞手」と言う着物がそれにあたるのではないでしょうか。そこから出発していただいて、大学、大学院、今の着付けに辿り着いていただきたいというのが私の気持ちです。
 とにかく、着物に対する間口を広げたい。できるだけ多くの人に着物に入門していただきたいというのが私の気持ちです。


 身障者の方にも着ていただける「都舞手」(写真提供:竹紫苑株式会社カワセ)

――今回、中国の皆さんに実際に着物を着ていただくようですが、そこに込めた思いは?

 私にとって、中国は特別のステータスがあります。それは、つまり、中国は伝統文化を伝えていただいた大切な恩のある国で、日本の伝統文化の親です。その息子、娘たちがこのような素晴らしいものになりました、このようなものができました、という気持ちで、多くの方たちに喜んでいただきたい。子どもが親に見せにいくような気持ちを訴えていきたい。そして、中国の皆さまも「そうか、ようやった」と思って、京都に来ていただけたら、本望ですね。

――最後に、何故、今まで北京に来ようとしなかったのですか。

 その機会がなかったんですね。ところが、去年、上海万博に参加させていただきまして、日本産業館のイベントホールで私も着物を着させてもらって、まるでスターになったようでした。一緒に写真をとってくれということで、着物が好きな方たちが多いんだなとホンマに嬉しかったですね。
 今回の北京イベントを通して、ぜひ京都にいらしていただく方が増えるよう祈っています。中国の皆さんに、まるで、娘息子の家に訪ねるような気持ちで来ていただけばうれしいと思っています。

 【記者のメモ】

 取材の日は、北京に大雨が降っていました。豪雨で足止めされていた川瀬さんと、取材後もおしゃべりを続けていました。

 日本に文化を伝えてくれた中国への敬意。利便さと効率化への追求から、伝統的な着物から遠のきつつある近代生活への焦りとそれに対する精一杯の抵抗。やんわりとした京都弁を通して、様々な思いが伝わりました。

 中国とのかかわりは昨年の上海万博に始まりますが、脳溢血のリハビリの真っ最中で、海外出張はドクターストップがかかっていました。それでも出発を敢行したのは、「生きることの価値は、感動の回数によって決まる。あれだけたくさんの人に喜んでもらえて、最高に嬉しかった。たくさんの感動を収穫した旅でした」。

 ところで、ここ数年、日本観光のビザ緩和で、京都を訪れる中国人観光客も増え続けていきました。

 「着物の売れ行きも、最初は伸びましたが、それも長くは続かず、ある時から観光客からの購入がぴたっと止まりました。何故か?買っても着られないことが一番の理由のようでした」

 日本国内では、着物を着たくても様々な理由で着られない人が60%もいることに加えて、こうした売れ行きの伸び悩みも「都舞手」の開発背景にあるようです。

 「着物はすべて手作業で、従業員の多くは年配者です。皆さんの生活がかかっているので、どんな時代でも、工夫して、何とかして着物がたくさん売れるよう努力しなければいけません」

 総企業数の99%が中小企業だと言われている京都。ビジネスは伝統文化の発揚そのものにかかるケースも多い。明治16年創業「竹紫苑」のブランドを有す「株式会社カワセ」も、その中の1つです。新しい時代になっても、人々に伝統的な着物をこれまで同様、親しみ続けてもらいたい。会社経営者にとって、大きなチャレンジだと言えます。

 こうした中に浮上した海外向けのPRでしょうが、決して拙速なビジネスだけでとらえていません。

 「国と国の交流は国民同士のつながりが一番。文化の交流を通して、始めて心が通わせることができる。着物もそうなった時に初めて売れるのです」

 根気良く、気長に構える。その心構えもまた京都人らしい。

(聞き手:王小燕)

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