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日本人スタッフのつぶやき185~枇杷膏的記憶・始~(4)

2012-09-13 10:07:24     cri    

 さて、物語の続きを始めようではないか。

 やっとたどり着いた"待望の新居"のお話。

 中国の物件というのは、賃貸であればベッドやソファなどの大きな家具から電気機器、カーテンまでが一通り据え付けられている。

 ほぼ身ひとつで即日日常に戻れるステキ・システムなのだ。

 しかし、分譲となると話は違う。

 売られるのは間取りも決められていないただの「コンクリートの空間」であり、「箱」である。床から壁紙、間取りなどの大きな部分以外にも、便器や蛇口のひとつまで、内装は「箱」を買った後で買い手が整えることとなる。(もちろん、物件によっては最低限整えられている場合もある)

 父は当時、中国での暮らしが長くなると見越してか中古マンションを買っていた。

 中古とはいえ、分譲は分譲。父が買ったのはあくまで「箱」だった。

 想像して欲しい。

 目の前には、エメラルドグリーンにべた塗りされた木製のドア。

 学校の掃除用具入れみたいなドアだ。

 一抹の不安を感じる。

 案内してくれた管理会社のお姉さんがドアを開ける。

 ガッ、ギッ。

 立て付けが悪く、腕の力では開かないらしい。

 不安は疑念へと変わる。

 ドッ、ドゴッ。

 お姉さんが当たり前のように体当たりを始める。

 いやな予感が漂う。

 ベキッ

 ――と音がして開いたドアの向こうは…

 コンクリートの箱。

 何もないかび臭い空間。

 父よ、あなたはナゼ、先に内装を済ませておいてくれなかったのか。

 ああ、無念。

 呆然と立ち尽くす私たちに管理会社のお姉さんがひとこと。

 「あ、お湯は出ませんから」。

 なんでも入居者がまだ少ないため、ガスもお湯もいつ、どの部屋に出るか分からないという。しかし、「たまたま出る部屋もあるので安心してください」と彼女は言う。

 「お風呂はお湯が出るほかの部屋を探しておきますから」。

 早くもホームシック、である。

 ~つづく~

 (この物語はフィクションです。独断と偏見的解釈もあくまでストーリーとしてお楽しみください)

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