赤トンボがたくさん飛んでいる、密雲ダムのほとりの道路を歩いています。市内から遠く離れているため、あまり訪れる人々もなく、セミの鳴き声や遠くの車の音しか聞こえません。
八月の末ごろは、一年中を通して木々や草花が最も生気を取り戻すシーズンで、紫色の茨の花が丘一面に咲き乱れています。取材目的の養蜂家の拠点に近づくと、ちょうど通りかかったてお客さんに蜂を紹介しています。
蜂蜜を売っている人は、鄭国伍さん、53歳、北京市密雲県の農家の方で、養蜂暦21年のベテランです。
道端の鄭さんの拠点は、60ぐらいの蜂の箱が、丘の上にずらりと並んでいるほか、その傍らに約5平米のテントが張り、中にはベッドやガス器具など簡単な日常生活用品が揃っていました。
鄭さんは「座ってください」と小さな椅子を出してくれました。周りにはぶんぶんと羽音を立てて飛ぶ蜜蜂が気にかかりますが、鄭さんが平然としいるのを見て、私もだんだん落ち着いてきました。録音では小さな雑音がしますが、それは蜂がマイクにぶつかった音です。取材は蜂が飛び交う中で行われたのです。
1974年から養蜂を始めた鄭さんは、今は北京に残っていていますが、昔は全国各地を飛び回りました。
「この仕事は全国を回るものさ。観光旅行なんか、そういうチャンスはないけど、蜂のおかげで南の方へも行ったことあるんだ。雲南省や四川省、河南省、みんな景色の素晴らしいところなんだよ。」
そんな楽しみがある一方で、つらいこともあります。
「食事を自分で作るのは苦手なんだ。そして、夜は電気もなく、暗い中で作業するしかない。雨の日にも雷が鳴った時も、寝られずに外で蜂の見張りをしなければならん。とりわけ、場所を移動するときは、一睡もしないことがあるんだ。」
養蜂の仕事は体力が必要なほか、なんといっても耐え難いのは寂しさだそうです。一人で辺鄙な人出のいないところに数ヶ月もいるのは想像してみても寂しいものです。いつも鄭さんの友人になっているのはラジオと犬です。
鄭さんのラジオはいつもかけっぱなしです。天気予報は仕事に欠かせないし、懐メロなどの歌番組を聴くのは鄭さんの楽しみだそうです。寂しいときはラジオと一緒に大きな声を出して歌うこともあるそうです。
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