中国の漢の末期、200年ごろ、現在の安徽省にあたる廬江郡の役所に焦仲卿という下級役人がいました。妻の劉蘭芝とは、とても夫婦仲がいいのですが、焦の母親はこの嫁を気に入らず、実家に追い返してしまいました。実家に戻って嫁の劉蘭芝は再婚はしないと決意しました。しかし、家族に再婚を強要され、結局、川に飛び込み自殺してしまいました。夫の焦はそれを聞いて、庭の木に首を吊り、後を追いました。当時の人はこの悲しい話を聞き、詩として書き残しました。詩のタイトルは「孔雀東南飛(孔雀が南東に向かって飛んでいく)です。
孔雀が南東に向かって飛んでいます。少し飛んではさまよっています。
劉蘭芝:私は13歳の時に、絹を織る技を覚え、14歳になると、布を裁断し、裁縫の仕事をこなしました。15歳で、楽器を弾き、美しい音楽を演奏できるようになり、16歳の時には、本を読んだり詩を書いたりしました。17歳になって、あなたと結婚しました。でも、時々つらいこともありました。悲しい思い出もいっぱいあります。役所勤めのあなたが、役所のルールを守り、精一杯働くこと、私はこれをよく理解できます。でも、私は家に残り、あなたと会える日は本当に少なかったのです。毎日夜明け前、私は機を織り始め、夜になっても休みません。3日で絹を5反織りましたが、お母さんからは、遅いとよく叱られています。私の仕事が遅いのではありません。あなたの嫁として気に入ってもらえないことが、本当につらいのです。お母さんが気に入らない私が、家にいても仕方がありません。この私を実家に返すとお母さんに話してもかまいません。
この話の始まりでは、激しい衝突が見えてきています。手先が器用で聡明な劉蘭芝は夫の焦仲卿とは睦まじい夫婦ですが、どんなに一生懸命働いても、姑からは嫌われています。そんな劉蘭芝はとうとう我慢できず、夫に愚痴をこぼしました。妻の話を聞いた焦仲卿はお母さんにこんなふうに話しました。
焦仲卿:僕は高官になっていっぱいお金を稼げるような人間じゃありません。幸いこんなに賢くて、できのいい妻と結婚できました。僕たちは結婚した後、互いに愛し合い、死んだ後も来世になっても再び寄り添うと約束しました。結婚してまだ数年しか過ぎていません。僕たちの生活はまだ始まったばかりです。女房は良くやっていると思いますが、お母さんはなぜそんなに気に入らないのですか?
焦母:おまえは知らないからそんなことをいえるんだ!その女は礼儀知らずで、何でも自分の考えだけで行動している。お母さんはずっと我慢してるんだ。おまえの勝手な話を聞くことはできない。お隣には羅敷というやさしくて可愛い娘(こ)がいる。お母さん、あなたの代わりに縁談を進めるよ。さっさとその劉蘭芝と離縁し、家から追い出しなさい。引き止めるなんて許さないよ!
焦仲卿は妻とお母さんの対立を収めるため、母親に自分の気持ちを伝えました。しかし、母親はそれを聞くどころか、息子に離婚させ、別の嫁をもらおうとしています。それを聞いて、焦仲卿は、びっくりしました。姿勢を正し、ひざまずいて丁寧に話しました。
焦仲卿:改めてお母さんに申し上げます。妻と離縁させるというならば、一生再婚しません!
焦の母親は息子の話を聞いて激怒しました。こぶしでいすを力強く叩きながら息子を叱りました。
焦母:お前ね!よくその女のためにこんな話を言えるもんだ!私はその女に何の恩義も感じない。お前の要求を聞くもんか!
お母さんの激怒した姿を見て、焦仲卿は黙ってお辞儀をして、自分の部屋に戻ってきました。妻に事情を説明しようとしましたが、悲しくて涙を流して話も途切れ途切れになってしまいます。
焦仲卿:オレの本心はお前を追い払うなんか、したくない。でも、母親に無理強いさせられている。だから、しばらくお前は実家に帰ってくれ。オレは今役所で仕事がある。しばらくしたら必ず帰ってきて、実家まで迎えに行く。だからオレの話を聞いてくれ、勘弁してくれ。
劉蘭芝:無理なことを言わないでください!私はあなたと結婚した時のことをまだよく覚えています。あの冬、私は実家を離れ、あなたの家に来ました。いつもお母さんの言うことをしっかりと聞いて、自分勝手なことは、少しもしていませんでした。昼も夜もコツコツと働き、一人でさびしくてつらい思いにも、一生懸命耐えてきました。過ちを犯さずに、一生お母さんにお仕えしたいと思っていましたが、結局、追い出される羽目になってしまいました。こんな私があなたの家に再び戻ることなんかあるのでしょうか!私は美しい刺繍のあるきれいな羽織や、良い生地で作ったとばりを持っています。それから、着物を入れる箱も60個以上持っています。それらの箱はまだ開けることもなく、きれいな緑の縄で束ねられています。更に、さまざまな器やお皿なども箱に収めています。こんなに嫌われる私の物は大したものではありません。あなたが今度迎える奥さんに挙げられるようなものでもないと思います。だから、記念にすべてあなたに差し上げます。もう会うことはないと思いますので、この品物を形見として、私のことをいつまでも忘れないようにしてください。
昔、中国では嫁入り道具はお嫁さんの個人資産でした。姑や夫は嫁の同意がなければ、嫁入り道具に手を出すことができません。嫁が亡くなっても、嫁入り道具は自分の息子や娘の資産になります。劉蘭芝は夫の家を出て行こうと決心し、自分の資産である嫁入り道具を形見として夫に贈りました。
翌日の朝、雄鶏が鳴き、夜がまもなく明けました。劉蘭芝は起き上がり、普段よりも、より丁寧に装いました。花の刺繍のスカートを穿き、アクセサリーを着けましたが、気に入らず、何度も着替えました。そして、ようやく身支度を終えました。絹で作った靴を履き、髪の毛にきらりと宝石を飾り、腰は白い絹で細く締めて、真珠のピアスをつけました。その指は白くて細くて、まるで白魚のようです。唇は赤く濡れています。小さな歩幅で軽やかに歩いていきます。その美しさは、この世に並ぶ人はいません。
劉蘭芝は居間に来て、姑と向かいあいました。姑はまだプンプンと怒っています。劉蘭芝の話です。
劉蘭芝:田舎生まれの私は小さい頃、きちんとした教育を受けたことがありません。あなたの息子と結婚できても、とても恥ずかしかったのです。結納の時、お母さんからたくさんお金やプレゼントをいただきました。でも、お母さんの態度には我慢できません。今日、実家に帰らせていただきます。お母さんにご迷惑をかけて本当に申し訳ありませんでした。
また、小姑と別れる時は、涙がぽろぽろとこぼれました。
劉蘭芝:あなたの家に嫁いだばかりの時、小姑のあなたはまだよちよち歩きでした。今日、私が追い出されるこの時、あなたは、もう私と同じぐらいの背の高さになっています。私がいなくなった後、お母さんに心を尽くして仕えて下さい。そして、遊ぶ時には、姉だった私のことを思い出してください。
劉蘭芝は小姑に話した後、門を出て馬車に乗り、ただただ涙を流していました。焦仲卿は馬に乗って先導し、劉蘭芝の馬車は後ろで、ギシギシと響くばかりでした。やがて、二人は分かれ道に来ました。焦仲卿は馬を下りて劉蘭芝の車に座り、夫婦二人で頭を伏せて小声で囁きあいました。
焦仲卿:オレは誓う。お前と絶対に関係を絶たない。しばらく実家にもどってくれ。今、役所に行って任務を果たす。しばらくして、必ず帰ってくる。神に誓うぞ。お前に悪いことはしない。
劉蘭芝:ずっと愛してくれてありがとうございました。こんなに私のことを思っているのなら、しばらくして必ず迎えに来てくれるよう願っております。あなたがいつまでも動かない石ならば、私はガマや葦のような植物になります。ガマや葦は柔らかいけれど、糸のように丈夫です。石はいつまでも変わりません。でも、私には兄がいて、とても怒りっぽい性格です。彼は恐らく私の願いを聞いてくれず、私をたくさん悩ませるかもしれません。とても心配です。
二人は手を振って分かれました。二人とも未練が残り、気分は落ち込みました。
この詩は合わせて1785字あり、登場人物の会話を通じて、それぞれのキャラクターが描かれています。
「古典エナジー」、今日は「孔雀東南飛」の前半、劉蘭芝が姑に苛められ、とうとう我慢できず、自分から立ち去ろうと決意したところまでを紹介しました。私は、劉蘭芝という人物がとても好きです。プライドが高くて、芯が強い女性だと思います。一生懸命やったのに、姑に気に入ってもらえないことを知り、自分から去ろうとしました。夫には一途でとても優しい女性ですよね。夫の焦仲卿も妻の劉蘭芝を愛し、二人の気持ちには忠実ですが、妻を守るために母親に対抗する勇気がないのは、ちょっと残念でした。嫌な感じなのは、悪役の姑ですね。独断・横暴な人物に思えます。
さて、夫と再会を約束し、実家に帰った劉蘭芝が迎えるこれからの運命はいったいどんなものだったのでしょうか。「古典エナジー」、次回は、中国漢代の叙事詩「孔雀東南飛」の話を続けます。お楽しみに。
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