「古典エナジー」、今回は中国最古の詩集、「詩経」をご紹介します。
儒教一色だった古代中国では、知識人たちが受験のために勉強しなければならない基礎知識が「五経」という五つの経典のようなものでした。その一つが、詩経です。「詩経」が記された時期は、だいたい西周の初期、すなわち、紀元前11世紀から、春秋時代の半ば、紀元前6世紀に至るまで、約500年間と推測されています。 詩歌305首収められていますので、よく大まかな数字で「詩3百」と呼ばれます。「風」、「雅(が)」、「頌(しょう)」の3部から構成されています。分かりやすく説明しますと、風は諸国の民謡、雅は宮廷の歌、頌は祭礼の歌です。詩経に載っている詩は、もともとリズムをつけて歌うことができるし、振りを付ければ、踊ることもできます。孔子は305首を全部弦楽器で演奏しながら歌ったことがあるそうです。詩経は漢詩の源、大元になるものです。後に中国で盛んになった唐詩や宋詞なども、韻律ということにとてもこだわり、まるで歌うように詠んでいました。
「詩経」の中では、さきほど紹介しましたように、雅は宮廷の歌、頌は祭礼の歌ということで、いずれも当時の社会の上流階級の特定の場面での歌です。宮廷や社会、戦場、歴史が舞台となり、周の国の起源や建国を歌う叙事詩や祖先への頌歌などを含め、当時の社会や農業、人々の生活を考察する上で、重要な資料となっています。でも、個人的にはやっぱり「詩経」の民謡の部分「風」が一番好きです。「風」には合わせて160首集められています。諸国の民間歌謡を主としていて、恋愛や結婚、生活、戦争がテーマです。特に恋愛や結婚の喜び、悲しみを描いたことが多く、古代女性の熱烈な息吹を伝えています。
『論語』で孔子はこのように「詩経」を評価しました。「子曰わく、詩三百、一言(いちごん)以てこれを蔽(さだ)むれば、思い邪(よこしま)なしと曰(い)うべし)」。これを現代語を訳しますと、孔子がおっしゃいました、「詩経には300以上の詩が収録されている。これらを一言で言い表すとしたら、素直な人間性の表れである。」
では、いくつかご紹介します。
采葛(さいかつ)
彼采葛兮 彼(か)の葛を采(と)らん
一日不見 一日(いちじつ)見(あ)わざれば
如三月兮 三月(さんげつ)の如し。
彼采蕭兮 彼(か)の蕭(しょう)を采(と)らん
一日不見 一日(いちじつ)見(あ)わざれば
如三秋兮 三秋(さんしゅう)の如し
彼采艾兮 彼(か)の艾(がい)を采(と)らん
一日不見 一日(いちじつ)見(あ)わざれば
如三歳兮 三歳(さんさい)の如し
葛は植物のくずです。彼女がくずを採りに出かけました。会わないのはたった一日ですが、三ヶ月ほど会っていない感じでさびしい。蕭(しょう)とはよもぎです。彼女がよもぎを採りに出かけました。会わないのはたった一日ですが、三つの秋、つまり9ヶ月ほど会っていない感じでさびしい。艾(がい)とはもぐさです。彼女がもぐさを採りに出かけました。会ってないのはたった一日ですが、まるで3年ぶりのようです。たった一日の別れが、男性の心の中では、3ヶ月から、9ヶ月、そして、3年へと、だんだんと長くなるという錯覚で、恋人の思いをイキイキと伝えました。
中国では、今でも、"一日不見、如隔三秋"で 、一日が非常に長く感じ、待ちこがれる気持ちを表します。日本でも、「一日千秋」、「一日千秋の思い」などとよく言いますね。その出典も中国の「詩経」です。ただ、三秋から千秋になってしまいました。1000の秋って、3000ヶ月ですね。中国人と日本人は時間の捉え方が違いますね。それとも、日本人の男性の思いがもっと濃厚でしょうか。この「采葛」という詩のように、「詩経」の「風」の基本的な形は、四言(4音節)のリズムを基調とし、4行で3回反復するのが一般的です。
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