今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
この時間は、少し変わったお話を二つご紹介しましょう。
一つは「山の洞窟」、もう一つは「質屋殺し」です。では参りましょう。「山の洞窟」からです。
「山の洞窟」(査牙山洞)
山東の章丘に査牙山という山があり、その裏側には、入り口が井戸口ほどの洞窟があり、かなり深いという。この洞窟は入れば先は下に向かっていた。そしてこれまで山のふもとのものは誰もこの洞窟にも入ったことがなく、物好きな若者などは、いつかは中に入ってやろうと思っていた。
と、ある年の9月、祭りが終わった翌日に、六人の若者がこの洞窟の前で酒を飲みながら、この洞窟の中を誰が、どうやって探るかを話していた。そこで肝っ玉の太い三人が縄を伝って中に降りることになった。こうしてその三人は、酒の勢いもあってか、たいまつを手に威勢よく洞窟に入ったが、下に降りてみるとなんと中はかなり広かった。
「うえ!中がこんなに広いとは知らなかったな」
「ほんとだ!すげえな、これじゃあ、楽に行けるぜ」
「しかし、気味が悪いな」
「大丈夫だよ。誰も入ったことにない洞窟にきまってらあ。悪者なんかこんなところには来ないよ」
と、三人は喜んだが、少し行くと洞窟はだんだん狭くなっていく。そして少し心細くなってきたころ、行く手はまた下のほうに向かい、狭い穴の入り口にきた。それに一番前の若者がたいまつで前方を照らしても、穴は遠くに続いていて前は真っ暗だ。これに二人の若者は怖くなったものの我慢して行く。そして広いところにでたので、かの二人はもう前に進むのは止めたと言い出だした。
そこでもう一人の若者がたいまつを持ち、「お前たち。さっきの威勢はどこに吹っ飛んだんだい?」とあざ笑い、一人で前をいく。
「おい!気をつけろ、何かあったらすぐ引き返せよ。おいら達は洞窟の前でみんなと一緒に待っているからな。縄はあのままになってるからな」
残った若者がこう声をかけると、一人になった若者が「わかったよ」と言い残して前へ進んだ。
さて、この若者、少し行くと、前は鍾乳石が邪魔になってうまく進めない。そこでなんとかいくといくらか広いところに出たが、両側の壁にいろいろと人間みたいな形をした岩が突き出ていて、それはお寺の五百羅漢が並んでいるようで、あるものは目をカッと開き、若者を睨んでいるような気がする。これに若者はぞっとしたが、それでも元気を出し、腰のひょうたんを取って、なかの酒を少しのみ、気を落ち着けた。が、岩はそれぞれ動いているようでどうしても気味が悪くなった。そこで酒をもう一口飲んで歩く足を速め先を急いだが、不意に石の部屋が見えた。そこでたいまつをかざしてみると、その家の戸の前には目が突き出て口が大きく、牙をむき出したせむし男の石像はあり、右手を伸ばして何かをつかもうとしている。これに若者はびっくりしたが、それよりも部屋の中の地べたに誰かが横たわっているようだった。
「え?こ、こ、こんなところに人が?」と足が硬くなり、その場に立ち尽くしてしまった。すると、中から若い女子の泣き声がする。
「え?この部屋に中に女子が?そ、そんな!」
すると、その女子の泣き声が少し大きくなったようなので、これは助けを求めているのではないかとこの若者、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かし、しばらくして足が動くようになったので、恐る恐る部屋の中に入った。みると地べたに黒い服をまとったものが横たわり、それが泣いているのであった。
「お、お、おい。いったいどうした?大丈夫か?」
若者がこう聞いても相手は答えない。
「いったいどうしたんだ?どうしてこんな洞窟の奥に来たと起きた。そこで若者はもう一度明かり向けた途端「うわ!」と声を出した。
それは、一方の目玉が外にぶら下がり、もう一方の目玉が突き出た化け物だった。
「うへ!!」と若者は、びっくりして外へ逃げ出したが、その化け物は気味の悪い声を出して追いかけてくる。これに若者は腰を抜かしそうになったのを必死にこらえ、これまできた道というか、穴というか、何はともあれ、仲間のいるとろへ死に物狂いで走り、這い、転がり進んだ。で、この若者は普段から体を鍛え、特に走るのが速かったので、化け物にはすぐ捕まらなかった。そして若者がへとへとになって「助けてくれ」の声も出ずに、やっとのことでこの洞窟の入り口の下の広いところの近くに来たとき、かの化け物が若者を襲い、「ギャー!」という声がして静かになった。
で、この声を聞いたほかの若者たちが、これは大変だと手にたいまつや得物を持って急いで洞窟の入り口から下に降りてきた。すると先の穴の入り口から「ひっひっひっひっひ!」という不気味な笑い声と何かをかじる音が聞こえる。これを聞いたものたちは腰を抜かした。
しばらくしてそのものをかじる音が聞こえなくなり、静かになったので、みんながたいまつを手にその音がしたところへいってみた。すると、そこには血だらけの骸骨が、ばらばらに落ちていた。
さて、そのあと、このことを耳にした地元の県令は、手下に命じてその洞窟の入り口を壊し、石や土で埋めてしまったという。
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