今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
この時間は、清の時代の怪異小説集「聊斎志異」から「汪士秀」と「于江」というお話をご紹介しましょう。はじめは「汪士秀」からです。
芦州生まれの汪士秀は、肝っ玉が太く短気であり、それに力持ちで、大きな石臼を持ち上げるほどだった。汪士秀は幼いときから父に球蹴りを習い、かなり上達したが、その後父は四十幾つの時に仲間たちと銭塘江を船で渡っていて川に落ちて行方がわからなくなった。
その八年後のある日の夜、汪士秀は父の夢を見た。父は夢の中で自分は川に流され大きな湖にいるというのだ。そこで数日後、汪士秀は湖南にきて、銭塘江が流れつく洞庭湖で舟に乗っていた。こうして夜になり満月が空に昇ったころ、静かだった湖面に波が立ったので、汪士秀がかなり明るい月の光の下で目を見張ると、近くで不意に何人かが水中から浮き上がり、なんととても大きな茣蓙を湖面に敷き、その上で酒や肴を置いて飲み食いし始めた。
「うん?いったい何者だ?」が汪士秀がびっくりしていると、そのうちの三人は胡坐をかいて飲み、残る二人はこの三人に酒を注いだりして世話しているのだった。目を凝らしてみると胡坐をかいている三人のうち一人は黄色っぽい服をまとい、後の二人は白い服を着ていた。そして世話をしている二人は灰色の服を着ていて、一人は少年で、もう一人はどうも五十を過ぎた男だった。
このとき、胡坐をかいている黄色の服をまとった男がいう。
「うん。今夜は酒も美味いが、月が明るく、昼のようだな」
これに白い服の男の一人が答えた。
「そうですな。今夜はどんどん飲みましょう」
こういって三人は酒を酌み交わす。そこで汪士秀は音を立てないように舟をこの五人がいる茣蓙に近づけ、三人の世話をしているかの五十を過ぎた男に'注意した。そしてその男が自分の父に似ており、声も似ていたが、どこか知らない方言でしゃべっているようだった。そこで汪士秀はまたしばらく様子を見ることにした。
やがて月が頭上にきたとき、酒を飲んでいた男の一人が、今から球蹴りして楽しもうと言い出した。すると少年が水の中から球を取り上げた。その球にはなにか光るものが詰めてあるようで、明るい月に映えてピカピカする。こうして座っていた三人の男が立ち上がり、黄色い服をまとった男が汪士秀の父らしい男を呼んで四人で球蹴りをはじめた。そして四人の男はたくみに球を蹴り,そのうえ蹴られた球が光るので、それは面白く見事な光景だった。これを見た球蹴りが大好きな汪士秀は、自分が何をしているのかを忘れ、うずうずしていた。そして誰が蹴ったのかは知らないが不意に球が自分のほうに飛んできたので、思わず飛び上がって一蹴り。ところが力が入りすぎたのか、球は蹴り割れてしまい、中の光るものが散り、あたりはぱっと明るくなった。これをみた男たちが怒った。
「あ!何者だ!わしらの楽しみをぶち壊しよって!!誰だ!出て来い!」
ところがかの五十を過ぎた男は、これを見て驚いただけでなく、にやっと笑い、すぐに慌てて黄色い服を来た男に言い訳した。
「お待ちください。今の蹴り方は、我が家の蹴り方で流れ星と申します」
これを聞いた汪士秀はかの五十を過ぎた男が自分の父だと悟った。が、いったいどうなっているのかがわからないので黙った。さて、汪士秀の父のこの言い訳を聞いた白い服を着た男は、こんなときに冗談をいうとは何事だと怒り、「何をふざけたことをぬかすか!いいか、あの球を壊した奴をここに捕まえてこい!」と命じた。そこで汪士秀の父と少年は得物を手に、汪士秀の乗る舟のほうに向かってきた。これを見た汪士秀は相手が父だとわかっているので、叫んだ。
「父さん!俺だよ、士秀だよ」
これを聞いた父は息子が来たのを知って大喜び。さっそく舟に飛び乗り親子は抱き合った。しかし、少年のほうは何がなんだかわからないので、慌てて男たちのほうへ引き返し、このことを男たちに伝える。
「なに?奴の息子が来た?いかん、奴とその息子とやらを捕まえろ!」と男たち。
こちら汪士秀の父は「士秀や。お前は早く隠れろ。でないとわしら親子ともに死ぬぞ」と叫んだ。が、そのときにはかの三人の男はすでに汪士秀の舟に乗り移っていた。汪士秀が見ると三人とも黒い顔をし、大きな目玉をもち、口も耳まで裂けていた。これに汪士秀がびっくりしている間に、男たちは父を捕まえたので、汪士秀は父を取られてなるものかと奴らともみあった。そして腰に下げてきた刀を抜き、黄色い服を着た男の腕を切り落としたので、相手は悲鳴を上げて水中へドブン!すると今度は白い服をまとった男が汪士秀めがけて襲ってきたので汪士秀はまたも刀を振りかざし、相手の頭を切り落とした。これを見たもう一人の男は、これはかなわんと湖に飛び込む。そこで汪士秀は父をかばいながら舟を岸に方に漕いでいく。そしてもう少しで岸に着くというときに、湖面には大きな口が三つ出てきて、舟を飲み込もうとする。そこで汪士秀は岸に飛び上がり、近くにあった大きな重い石を担ぎ上げ、次々に三つの大きな口の中へ投げ込んだ!こうして三つの口は次々に沈んでいった。やがて波は収まり、湖面は静かになった。
そこで汪士秀が父に聞く。
「父さん、これまでいったいどこにいたんですか?わたしは父さんがもう死んだと思っていましたよ」
「いやいや、心配かけたな。実は八年前のあの時、わしと仲間は銭塘江を船で渡っているときに、あの魚の化け物たちにさらわれてな。そしてわし以外に十九人いたが、みんな殺されて食べられてしまったが、わしは球を蹴るのが得意なので、化け物たちの遊び相手をして、食べられずに済んだというわけだ」
「では、何であいつら化け物はこの湖に?」
「ああ。それは奴らがいつだったか、銭塘江の主である竜を怒らしてしまい、かなわないので、ここに逃げてきたのだ。もちろん、わしも連れてこられたのだがな」
「そうでしたか。さあ、ふるさとに戻りましょう。母さんがどんなに喜ぶことか」
こうして親子はすぐそこを離れ、ふるさとに向かったそうな。
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