郭二がこう叫んでも、石臼はなおも動いている。こうして大豆はひき終り、石臼は動きを止めた。こうなっては郭二も仕方なく、妻の手伝いもあって豆腐を作ることになってしまった。しかし、郭二は、どうも風邪をこじらしてしまったらしく、出来た豆腐を担いで町に出ることもできない。そこで妻は親戚の甥に豆腐売りを頼んだ。
そしてその翌日の夜半に、また同じことが起きた。郭二夫婦ははじめは不気味に思ったが、石臼が自分で大豆をひいてくれ、その音を耳にしてからも寝ることが出来たので、これは助かると黙っていることにした。こうして半月あまりが過ぎた。もちろん郭二の風邪も治り、この日は自分で豆腐を担いで町に出た。そして豆腐を売り終わり、前のように例の酒屋に行くと、かの主が出てきて聞く。
「郭さんよう。半月ぐらい顔をみせないがどうしたんだい?」
「いやね。あの日、秦さんと飲み比べをした帰りに風邪を引いてしまってね。これをこじらし、ずっと寝込んでいたんだよ」
「そうかい」
「そんなことより、あの日、秦さんはあとどうなったい?」
「え?あんた知らないのかい?」
「知らないって、秦さんどうかしたのかい?」
「秦さんは死んだんだよ」
「なんだって!!?秦兄いが死んだ?」
「ああ。あの日、秦さんはあんたが帰った後しばらく寝ていたが目をさましたあと、ふらふらして帰っていったよ。しかし、その次の日に、秦さんは渡し場で重い荷物を担ぎ、どうしたことか、川に落ちておぼれて死んでしまったんだよ」
「ほんとかね!」
「こんなことで人にうそをつくと罰があたるよ。そうだ。秦さんはあの日、目を覚ました後、わしは負けたんだ。約束どおり、郭さんの石臼をまわさなきゃあと言い残して帰って行ったぞ」
「ええ?石臼をまわさなきゃあと言って?」
「うん、確かにそう言ってたな」
これに郭二ははっとなった。これまで毎晩家の石臼が一人で動くのは、秦三があのときの約束を果たしているのだとわかった。しかし、郭二は、このことは口にせず、いそいそと家に帰り、妻にこのことを話した。これに妻もびっくりしたものの、秦三の人柄に感心して黙っていることにした。
こうしてそれから一年近くが経った。もちろん石臼は毎晩動き、郭二の豆腐は今までどおりよく売れ、その暮らしも豊かになっていた。
さて、秦三と飲み比べをしたあの日からちょうど一年目の夜、郭二は上等の酒と肉や魚の料理を作り、これらを石臼がある小屋においた卓に並べ、妻と共に跪き、お椀に酒をついでそれを手に天を仰いだ。
「秦兄い。これまで一年間ありがとう。あんたが助けてくれたおかげでわしの商いもよくなり、こうして上等な酒までかえるようになったよ。ご苦労様でした。今夜は十分飲んで休んでくれ。そして明日からは自分のことをしてくれや」
すると、どうしたことか、見えない手が郭二の腕をつかみ、その手からお椀を取っていき、誰かが一気に酒を飲むようにお椀が傾き、お椀はそのまま郭二の手に返された。郭二がみると酒はなくなっているではないか。そして小屋の門がひとりでに開き、誰かが小屋から出ていく気配がした。これをみて郭二はいう。
「秦兄い、さようなら」
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