「農民とキツネ」
いつのことかわからん。ある農民は山のふもとで草刈をしていた。草刈は毎日朝から夕方までやらなくてはならないので、農民の妻は、せとものの壷に食べ物を入れ昼飯を夫に届け、農民は昼飯を食べたあと壷を畦道においていた。
で、ある日、その日は飯が多かったのか、農民は壷に少し残した。そしてこの日の仕事が終わっていつものように壷を持ち帰るため畦道に行くと、壷に残っているはずの飯がすっかりなくなっているではないか!
「うん?おかしいな。誰が食べてしまったんだ?ま、いいか」と農民はなくなったのが残った飯なのでそう難しくは考えず、家に帰っていった。
そして次の日、妻はまたも多めに昼飯を作ったので農民はまたいくらか壷に残していた。が、この日も残った飯が食べられている。
「これはおかしい。なにかあるぞ!」と農民は、次の日、昼飯を少し残した壷をまた畦道においたあと、草刈しながらあたりを注意深く見ていた。しばらくすると、なんと一匹のキツネがどこからかやってきて、畦道に置いた壷に頭を突っ込み、自分の残した飯を食べている。
「ありゃ?そうだったのか。こそ泥めが!」と農民は、こっそりとキツネに近づき、「この泥棒キツネめ!懲らしめてやる!」と手にしていた鎌の柄でキツネの腰を思い切り叩いた。これにキツネはびっくり。首を壷に突っ込み一心に食べていて、周りの気配に気が付かなかったときに、腰をいやというほど打たれたのだから、首を壷につこんだままがむしゃらに走り出した。が、目の前が真っ暗なので方向がわからず、急にひっくり返った。途端、壷が割れて農民が怖い顔して追ってくるのを見つけたので、腰が痛いのを我慢して一目散に山の方に逃げ出した。そしてキツネはそのときからこの農民をひどく恐れはじめ、山の南のほうへ引っ越していった。
それから何年か過ぎたある年、山の南のふもとに住む金持ちの家の娘がなんとキツネに憑かれたというので、金持ちは巫女を呼んだりしてキツネを退治しようとしたが効き目がない。これに金持ちは困り、嘆んでいた。
と、ある日、キ杜魯賓」ツネはいつものように若い男に化けて娘の部屋に来た。
「ふん!わたしは巫女など恐れないよ!巫女がつまらないお呪いなどしても、わたしには通じないのさ」
これを聞いた娘がうつろな眼をして言う。
「それじゃ。怖いものなしね。わたしはあなたの言うことを聞きます。いつまでも聞きます。でも、あなたはこの世で怖いものはないんですね。それなら大丈夫だわ」
「そう、お前はおとなしくわたしの言いなりになるんだよ」
「はい。わかりました」
この娘の返事に安心したのか、男に化けたキツネはこんなことをもらした。
「よしよし。実はわたしはこの世に怖いものはないというわけでもない」
「うそでしょう?」
「いや、実は、数年前、山の北の畑で草刈している農民がいてな。当時は食い物になかなかありつけず、あまりにも腹が減っていたもんだから、その農民の残した昼飯を盗み食いしていると、農民にみつかってしまい、腰をいやというほど叩かれたよ。あの時は本当に死ぬかと思ったほどだ。あの農民は本当に怖かった。もう二度と会いたくないな」
これに娘は何も言わなかったが、次の日、金持ちが娘の様子を見に行くと、娘は寝ていたが、急に眼をつぶりながら、昨日キツネが自分に言ったことを金持ちに漏らし、また頭が痛いと寝てしまった。この娘の言葉に金持ちは喜んだ。
「そうだったのか。キツネめにも怖いものがあったのか!よし!」と金持ちは、下男たちを山の北にやり、数年前、畑で残った昼飯を盗み食いしていたキツネを懲らしめた農民を探させた。そうして下男たちが農家を一軒一軒回ったおかげで、ある家の農民が自分は昼飯を盗み食いしたキツネを鎌の柄で叩いたと言い出した。
「そのキツネが山の南で人に危害を加えているとはほんとかね」
「あんただったんだね。実はうちの旦那さまがあんたを探しているんだよ。うちのお嬢様がその悪いキツネに憑かれ、ひどく衰えてしまいなされてね。どうか、お嬢様を助けてくださいよ。旦那さまはきっとお礼をするとおっしゃっておられるし」
「いや、いや。お礼はいいが、あのキツネが悪さをしているは許せないね」
ということになり、この農民は下男たちについて金持ちの家に来た。
そこで金持ちがいう。
「これはこれは、お待ちしてましたぞ」
「ほんとに、あのときのキツネが化けてお嬢様をくるしめているんだべ」
「娘が言っておるので間違いないと思います。人を助けると思って何とかしてくださいな」
「それでは、試してみましょう。もし、あのときのキツネじゃなきゃあ、どうにもならんけど」とこの農民は、その日は金持ちの家に泊まった。
さて、夜半になったころ、農民は金持ちと言い合わせたとおり、起き出して庭に出ると娘の部屋の様子を伺った。すると部屋の中から娘の声のほか、若い男の声がする。
「うん?これがキツネが化けた男の声か。あのキツネかどうかわからんが嚇かしてみるか」との農民が部屋の戸を蹴り開け「この泥棒キツネめ!懲らしめてやる!」とあの時叫んだのを大声で繰り返した。
こちら部屋の中のキツネ、これにびっくり!それにこの声に聞き覚えがあるので急に恐ろしくなり、床の上から地べたに落ちた。これをみた農民は、「あの時うまく逃げられたが、今日こそは逃さんぞ!殺してやるから覚悟しろ」と叫ぶ!
これを聞いたキツネは元の姿に戻り、逃げるのも忘れて地べたに頭をつき、殺さないでくれと一心に頼んだ。
そこで農民は、人を殺したわけでもないので許してやるかとおもい
「速くどこかへいってしまえ!今度お前の姿を見たらきっと殺すからな!覚えておけ!」と嚇かすと、キツネは悲鳴を上げて屋根に飛び上がり、どこかへ逃げていったという。
それからというもの、ここら一帯にはキツネは化けて出たりはせず、キツネもいなくなったという。
え?農民?もちろん金持ちから随分お礼を貰ってニコニコ顔で家に戻ったワイ!
| ||||
© China Radio International.CRI. All Rights Reserved. 16A Shijingshan Road, Beijing, China. 100040 |