この日、少年は通州に住む叔母の家を離れて、速く戻ろうと帰途を急いでいたところ、ある村の近くの道で、どうしたことか、かつて自分を辱め、可愛がっていた犬を剣で刺し殺した、かの三人のどら息子に出くわしてしまった。そこで少年は必死に逃げ出したが、なんと自分に気付いたどら息子たちは、瞬く間に少年に追いつき、またも裸にしようとしたので、少年は死に物狂いでもがいた。
と、そのとき、村のほうから一匹の大きな黄色い犬が吼えずに走りよってきて、なんど牙をむき出し一人のどら息子に飛び掛ると、喉を噛み切ったので、そのどら息子は喉から血を噴出して死んでしまった。これを見た二人のどら息子、戦いて逃げ出そうとしたところ、大きな黄色い犬が同じ様に飛び掛り、一人の片足を噛みちぎり、もう一人の片腕を噛みとってしまったではないか。こうしてこの二人のどら息子は痛さのために、地べたでのた打ち回っていると、かの大きな黄色い犬は、びっくりして立ち上がった少年に向って鼻を鳴らしたあと、不意に村のほうに帰っていった。
そこで、少年は、どら息子たちをほったらかして村に入った。すると、かの犬が近くで待っていて、少年が来たのを見てある農家の庭に入っていった。これに少年が続くと、犬は庭の隅の垣根の下に掘った穴に落ちた。これは大変と少年が穴に近寄って中を見ると犬は死んでいた。
「うん?どうしたんだ?」と首をかしげていると、農家から一人のばあさんが出てきた。
「誰だね?そこにいるのは?」
このばあさんの問いに少年は死んだ犬のことを聞いた。
「ああ、うちの犬かね。犬は老いぼれて昨夜死んだばかりさ。これから穴を埋めようと思っていたんだけどね」と答えた。そこで少年は死んでいる犬にお辞儀してからその場を去り、帰途を急いだ。
で、その日の夜、少年の夢に自分の可愛がっていたあの犬が出てきた。
「ご主人さま、あなたさまのご恩はこれでいくらか返せたと思います。これから私は遠いところに行き、もうあなたさまの夢には出てこられません。ご主人さま、強くなって達者にお暮らしくださいませ。ではさようなら」
このときから、少年は人が変わったように学問と武術に励み、毎日庭にある愛犬の墓の掃除をして、犬に感謝した。そして少年はのちに悪い奴らが怖がる武芸にたけた学者になったという。
そろそろ時間です。来週またお会いいたしましょう。
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