42万人の来場者を引き付けて、27日に閉幕した第15回中国北京科学技術産業博覧会(以下、「科博会」)では、今年は初めて「農業」にちなんだテーマ展示が行なわれ、農業政策や合作社の運営管理などを議論するシンポジウムや、中央政府の「三農」助成金申請に関する説明会(写真右)も開かれました。
「三農」とは農業、農村、農民の略です。中国政府の「三農」問題に対する姿勢を論じる時、しばしば例として挙げているのは、毎年の年頭に発表される政府公文書第(一号(「中央一号文件」)のことです。この公文書は2003年から毎年、「三農」問題を取り上げてきました。
専門家は、中国の工業化が一定の段階に上ってきたのにつれ、「三農」問題の解決こそ今後、中国の持続可能な発展にかかっている問題とし、国の重視と産業社会の発展のトレンドから見ると、中国の農業はいま、まさに春を迎えようとしていると見ています。
「三農」問題の現場に関する最新の動きについて、全国各地からの参加者が集まる「科博会」で取材してきました。
■脚光を浴びている近代農業、モデル基地作りが全国でブーム
今回の展示会では、「近代農業と農業技術」が大きなテーマになっています。
中国は、中国における近代農業の先端技術を展示するため、現在北京で整備中のモデル基地が今回、全国からの出展者にお目見えしました。
場所は市内から北東へ約90キロの密雲区。山あり、ダムありの風光明媚なこの地は市内から離れていることを逆手に、エコ型農業の発展に力を入れています。現在、ここでは敷地面積が1500ヘクタールの国家級現代農業科学技術博覧園の整備が進んでいる最中です。有機栽培、食品加工、エコ観光など生産から供給、販売を含めたまとまった産業チェーンを有す近代農業のモデル基地を目指しています。
園内には、中国各地及び世界各国に農と食を展示する予定地も設けられており、国際都会を目指す北京に農と食の面から花を添えていこうという企画です。
最も、このような観光を兼ねた近代エコ型農業をコンセプトにする農園や農業基地作りは、全国でブームになっています。進んだ農業技術の応用と普及、地元経済の振興及び農民の増収、さらには都会人に農業と身近に触れるト同時に、レクリエーションの場を提供する一石多鳥の効果が期待されています。
こうした中で注目されているのは、民間や地方の取り組みに対する中央政府の資金的支援が整えたことです。農業の技術革新やイノベーションにより農村振興に関するプロジェクトとして認定された場合、国の助成金を享受できる制度は2003年に整っています。その規模は年を追うごとに高くなってきていることから、今年の科博会では助成金申請に関する説明会まで開かれました。
内蒙古自治区赤峰市付近の農牧業合作社の代表・劉さん(写真左)の話です。
「私の故郷は土地が貧弱で、農業や牧畜業による収入が低く、若者は皆都会に出稼ぎに出ていき、故郷に戻ってきません。
私たちの夢は資金を導入して、観光型農園を作ることです。広大な土地を分散して住んでいる地元の農民や牧畜民たちに農園の近くに集中して住んでもらい、皆さんの生活インフラをきちんと整えます。また、農園ができれば、農民、牧畜民たちを正式な従業員として雇い、良質な農産物、畜産物の栽培、製造ができます。さらに、故郷で起業した若者向けの起業資金を儲け、観光産業、飲食業などを発展させ、若者が故郷に残っていても生きがいを感じることができる環境を整えたいです。」
劉さんは観光農園の用地はすでに確保しており、不足しているのは資金のみだと言っています。少なくとも4000万元から5000万元の投資が必要とされるこのプロジェクトですが、地元民の今後の地域発展に寄せる夢が託されています。
同じく都会人向けの観光型農園の夢を描く安徽省ワイ南市の企業は大きなブースを構えていました。
ワイ南市は、中国有数の炭鉱の町でしたが、この企業は廃坑になった炭鉱の跡を利用して、エリンギ、落花生、ざくろの栽培、そしてレクリエーション型観光農業を展開する農業科学技術基地の整備に取り掛かっています。
総面積1万ムー。総投資額が1億元に達する予定です。今回の博覧会での出展も、まさに国の援助金申請の呼びかけの一環として位置づけられています。
会社の広報担当、孫蘭さん(写真左)の話です。
「中国は農業大国です。人々の生活レベルが向上したのにつれ、人々はより健康で、栄養バランスのよい"食"を求めるようになっています。きちんと科学的に管理されたプロセスで作られた農産物が今後の主流になることでしょう。これがまさに私たちが基地でやろうとしていることです。
さらに何よりも、地元農家の方々と一緒になって豊かになること。これが私たちの目標です。農業に対する古びた考えを捨ててもらい、科学技術を生かした農業生産の普及に役立ちたいです。三農問題の解決には、政府がすべてをやることができないので、場合により、企業の視点に立って、政府のお手伝いができると考えています。」
2011年、中国本土の人口構成に変化が生じました。この年の末までに、都会部の人口が初めて農村人口を上回って、全体の51.27%を占めるようになりました。この傾向は今後も続いていくと見られています。また、中国における都市化率は今後、毎年1ポイントずつの割合で変わっていくだろうという見方もあります。
こうした人口の流れを背景に、近代農業に基づく観光型農園は都会と農村を結ぶ上での絆としての役割、そして、そこで受け入れ、広がった進んだ農業理念の波及効果が期待されています。
■「中国の農業に春がやってきた」と専門家
中国における都市と農村の分断化された管理、または所得格差のことが議論されて久しいです。
中国で数千年続いた農業税が2006年に撤廃されたのに代表され、近年、中央政府による「三農」関連投資がどんどん拡大し、昨年、その額は史上初めて1兆元を上回りました。今年は、前年より17.9%も増えて、1兆2287億元にまで拡大する予定です。
ところで、このような中央政府による三農問題の重視姿勢は、歴史的な経緯と関係があり、決して、ふらりとひらめいた一時しのぎの対策ではなく、実は必然性の伴った動きだという冷徹な見方もあります。
中国農業省企画設計院の専門家・姚文初(写真左)氏もそうした観点を唱える一人です。
「新中国が発足後、産業基盤が極めて弱かったため、国はマクロ調整を通して、農業の収益を削って、その分、工業生産に回していました。例えば、小麦の買取価格は本来は500グラムにつき0.5元で、コップの値段は一個0.3元でしたが、国の介入により、小麦の買い取り価格は0.3元に抑えたのに対して、コップの値段は0.5元に引き上げられました。これはつまり、小麦を栽培する農民はコップを買おうとすれば、一個につき、0.4元もの損をこうむることになります。」
一説によれば、新中国が建国後、こうして農産物の価格調整で収入を得て、工業生産に使いまわした金額はのべ6000~8000億元に達したと言われています。
姚さんは建国初期、こうしたやり方により工業発展の土台が築かれ、農業や農民は国づくりに大きな貢献をしてきたと高く評価し、「遡ってみれば、現在の三農資金の原資はまさに先代農民の血と汗を流して蓄積した貯金だ」と訴えています。
一方、現在の政府が三農問題を重要視する現実的な背景について、姚さんは「歴史的な必然性」から来たものだと指摘しました。
「一つは都市と農村の格差が近年広がる傾向にあること。政権政党として、国民の半分を占める農民の生活保障の問題を政権の存続にかかわる問題として捉えるべきです。もう一つは工業化の必要です。工業の更なる発展にとっても、農民の購買力を上げなければいけません。」
統計によりますと、中国における都市と農村の所得格差は1985年では1.86倍でしたが、2000年では2.79倍、2003年では3.23倍にまで広がり、一人当たりの年間所得格差の絶対値で見ると、1985年では341元で、2003年ではその20倍近い7238元に拡大しました。これに対しては、世界範囲では1.5~2.0倍が妥当とされており、大部分の国では、農村部住民の年間所得は都市部住民の3分の2を占めているというのが現状だということです。
以上のことを踏まえて、姚さんは現行の中国の農業政策は今後かなり長い間にわたって継続されていくと見ており、いまこそ、農業投資のベストチャンスだと訴えていました。
「工業から得た収入をもって、農業を支援するという現行の農業政策は、少なくとも新中国の建国百周年になる2049年頃にいたるまで、継続していくことでしょう。中国では、農業はかならず朝日のようにこれから立ち上がる産業になり、中国農業の春がやってきました。」 (王小燕)
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