日本の起業家で、脳科学者の滝久雄氏の代表作『貢献する気持ち』(紀伊国屋書店、2001年刊)中国語版の出版会が27日、北京で行われました。中国語版の書名は『奉献心――人之本能』(蔡院森訳)で、中央編訳出版社から2009年10月に刊行されました。
同出版社の和龑(ワ・ゲン)社長、中国駐在宮本雄二日本大使ら両国各界の関係者150人が参加したほか、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の松浦晃一郎前事務局長、名建築家の隈研吾氏がビデオメッセージを寄せ、祝賀の意を表しました。
滝氏は著書の中で「他者のために役立てたいと志す」気持ちを人間が「生まれながらに備わっている本能に起因し」、「先天的な欲求」だと語っています。この説をめぐり、自らの人生体験も織り交ぜながら、ギリシャ哲学史の思考法にルーツを求め、独自の人間観・社会観・企業間を模索しようとしています。なお、『貢献する気持ち』は中国語版に先立ち、2008年、イギリスで英語版も刊行されました。
滝氏は、交通広告会社やレストラン検索サイトの運営などにより、日本の駅空間の進化やパブリックアート事業の養成およびネット時代に対応した斬新なビジネスモデルの確立で注目されています。大学時代、父親の友人・大平正芳氏の影響を受け、中国に関心を抱き始めた滝氏は、1980年に敦煌の文化財保護に尽力した平山郁夫氏の同伴で初めて訪中しました。その後、30年にわたり、中国の鉄道当局や文化、教育、スポーツ、医薬、ITなど幅広い分野で交流協力関係を保ってきました。
宮本雄二大使は挨拶の中で、滝氏の学説と一連の活動は「今、『戦略的互恵関係』を目指す日中関係にぴったりはまったもので、その何年も先に走ったもの」と評価し、「これを機に日中関係はさらに暖かく、深く、思いやりがあり、世界に貢献できる関係になってほしい」と期待を述べました。
中国社会科学院哲学研究所のベン崇道研究員は、滝氏の学説と中国の「性善説」や現代社会でよく唱えられている「我為人人、人人為我」(人のためは自分のためでもある)という行動規範との関連性に注目を寄せています。「これまでは、貢献心を道徳や倫理学の視点でしか捉えられていなかったが、それを『人間の本能』にまで位置づけたのはこれが初めてだ。公徳心の欠如が目立つ現代社会において、この本の出版と普及には社会的意義がある」と述べました。
出版会では、滝氏が20年にわたり奨学金を提供し続けてきた清華大学美術学院から感謝状が送られたほか、滝氏から清華大学日本研究センターへの研究調査費の寄贈式も行われました。
写真左は滝氏に感謝状を手渡す同大学美術学院の前身・中央工芸美術学院の常沙娜初代院長(左)と同大学美術学院李当岐書記(右)、右は寄贈式に参加した同大学教育基金会賀美英理事長(右)と滝氏(右)。
(文・写真 王小燕)
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