四川で大地震が起きて、3週間経とうとしています。数多くの犠牲者と膨大な経済的な損失を出した今回の大地震は、中国にどのような教訓を与えているのでしょうか。建築と保険の視点から最近の動きをまとめてみました。
■ 大地震を無事耐え抜いた小中学校
四川で起きた大地震で、数多くの小中学校が倒壊し、子どもたちの犠牲者が数多く出たことで、中国国内でいま、手抜き工事の調査を行うと同時に、建築の品質や耐震強度に関する議論が盛んに行われています。
こんな中、大地震を無事耐え抜いた小学校や中学があることが注目されています。
「今後の再建に科学的根拠を提供するため、今回の地震で倒壊しなかった学校、病院、政府機関などの公共建築の資料を収集し、今回の震災で受けた経験を総括する」、と温家宝首相も指示を出したほどです。
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大地震を耐え抜いた安県桑棗中学(資料写真) |
大地震を耐え抜いた北川劉漢希望小学校 |
24日の新華社通信は、大地震で犠牲者やケガをした人が一人も出なかった安県・桑棗中学についての報道を行いました。安県は中学校が倒壊し、生徒や先生が1000人以上がなくなった北川県のすぐ隣にあります。
新華社通信によりますと、桑棗中学には2200人の生徒と100人以上の教師がいます。教室がある建物は全部で8棟あり、そのうちの一部は部分的に倒壊していますが、地震が起きた時、700人の生徒が授業を受けていた本館は無事、揺れを切り抜けました。
全校生徒と先生は無事脱出し、けが人も一人も出ませんでした。
このような"奇跡"が起きたのは、校長の葉志平先生の普段からの取り組みも関わっているといえます。校舎の品質重視と、学校教育に避難訓練をカリキュラムに取り入れたことです。
桑棗中学の教室棟のうち、20年前に建てた本館ビルは経費不足のため、建築資格を持たない地元の建築企業に請け負ってもらいました。そのため、竣工した後、しかるべき認定すら受けることができていません。先生たちから「危ないビル」といわれていました。
10年ほど前に、葉先生が校長になってから、この「危ないビル」の補強工事を始めました。経費が不十分だったため、数年間かけて補修をしました。
当初、17万元で建てた「危ないビル」を安全なビルにするため、全部で40万元が投入されたそうです。
「子どもたちを任せられている以上、安全を確保しなければならない。そうでないと、子どもの両親たちに顔向けできません」。
葉校長の言葉です。
一方、他所の学校で、生徒が圧死事件に巻き込まれたことなどを受け、2005年から、桑棗中学は毎年、避難訓練を学校教育の一環に取り入れました。避難する時は、クラスごとの通路、生徒が教室を出る時の順番、走るスピード、先生の立ち位置など、きめ細かく指導が行われました。
また、毎週火曜日は交通安全と飲食安全をテーマに、特別レクチャーが行われることも定例になっています。
こうした普段の取り組みが功を奏し、地震が起きた日は、わずか1分36秒で全校生徒と教師は、クラス単位で運動場に避難することができたそうです。
地震発生時、出張で綿陽に出ていた葉校長は大慌てで、学校に戻った時、運動場で整然と避難を終えた生徒と教師たちを目にして、葉校長は涙を流して、喜んだそうです。
■ 同済大教授、「建物の向きと断層の向きを垂直方向にすべき」
四川大地震で倒壊した家屋に対して実地調査をした結果、農村部、もしくは農村と都市の隣接地帯にある建物が最も多く倒壊し、これらの多くは見た目には、近代的な外観をしているものの、しかるべき現代的な建築法で建てられていない「にせ現代建築」であることが指摘されています。また、建てる前に、地質学的調査もなく、計画案も立てていないものだったことが分かりました。
こうした教訓を受け、震災復旧で建物の再建計画を練っている最中、建築基準通りに住宅を建てること、また、地震の断層地帯だからこその工夫が提案されています。
この中、収容所の建造や再建計画の計画案制定の仕事に当たっている専門家チームのメンバーで、同済大学建築と都市計画学院の呉志強院長は、断層の方向と住宅の向きとは密接なかかわりがあることに気づき、地震を引き起こす断層の特徴を把握し、それに合わせる形で住宅の向きを決めることを提案しています。
「われわれは地震の発生を正確に予測できない。しかし、地震波の伝わる方向に影響されて、家屋が揺れている。そのため、断層の亀裂が起きる方向を把握して、それにあわせて、家屋の向きを適切に配置すると、それだけで住宅の耐震強度を引き上げる効果が期待できる。再建計画を練る際、断層の発生する方向を十分に考慮する必要がある」、と呉院長が強調しています。
呉院長はまた、「仮設住宅で言えば、もし向きが断層の亀裂が入る向きと垂直方向にあるなら、少なくとも耐震強度を3ポイント引き上げられる。今回の震源地でも、亀裂が入ったり、斜めに傾いたりしているものの、倒壊しなかった家屋があったが、その理由の一つに、住宅の向きも関係している」としています。
なお、現場の調査情報から見ると、断層は一本の帯状のものではなく、一塊になっているため、こうしたことは、仮設住宅の設置にのみならず、今後の住宅の建造においても、しっかりと視野に入れておく必要があると呉院長は強調し、「何よりも、地質的な断層地帯に家を建ててはならない」と強く訴えています。
■ 待ち望む、地震保険制度の整備
四川大地震で、数多くの人が一瞬のうちに家を失いました。その中には、ローンで家を購入し、まだ弁済が終わっていない分譲マンションも数多くあったということです。地震の発生により、中国社会は地震保険をいち早く設置するよう求める声が高まっています。
中国では、生命保険の場合、地震による人身被害が保険の対象になります。一方、財産保険の場合、現在の住宅ローンに付随する基本的なリスク保険では、地震が補償対象とされておらず、特別な付帯条項のある契約を結ぶ必要があります。
対外経済貿易大学・保険学院の王穏院長によりますと、中国は現在、「地震保険」という独立した保険はまだ全国で確立していないということです。しかも、大部分の自然災害に対応する保険のうち、地震が補償対象から除外されているものが多いです。
一方、現在、中国にはすでに「地震保険」の制度そのものはあるが、ただ、それは江西省というひとつ省でのみ、テスト的に行っているものに過ぎません。2006年、江西省の九江市で地震が起きたのをきっかけに、スタートした制度ですが、対象はマグニチュード3.8以上の地震による家屋の損壊で、最高で住宅価格の80%までを請求できるとしています。ただし、保険料は年間、住宅価格の1%と高額なため、ほとんど普及はしていません。
今回の大地震の被害金額で、保険会社に損害賠償を請求できるものは全体のわずか5%程度にとどまると見られ、中国では保険のカバー範囲が狭く、その担うべき社会の安定化機能もまだ発揮できていないという問題点を露呈した結果となりました。
いち早く地震保険制度を整備して、独立の地震保険を設計し、一般国民が負担できる程度の保険料を設定するということが切羽詰った課題になったと言えます。(整理:Yan)
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