中国不動産大手董事長の語る日本
ーー万科企業株式有限公司 王 石董事長
中国の20以上の都市で不動産開発を手がけている万科企業株式有限公司。その董事長は無類の登山好きとして知られる実業家・王石さん。去年末、ここ数年、高騰し続けている中国の不動産市場は「すでにターニングポイントを迎えた」と言い、消費者に住宅を購買するなら、3、4年待ったほうが良いと提言し、議論を呼び起こした人物です。会社の管理職に日本人スペシャリストを起用し、日本の不動産デベロッパーとの共同開発も手がけています。さらに、住宅のプレハブ化を中国国内でいち早く呼びかけ、その研究開発や実践を重ねている最中です。
先日、北京市内での記念講演会で、王石氏は自らの起業と「日本」とのかかわりについて話をしました。日本の登山家たちの影響だけでなく、企業の経営理念やものづくりに対する考えにおいて、日本から強い影響を受けたと惜しみなく語っていました。
ソニーから「アフターサービス」を教わる
万科は現在、中国の代表的な不動産開発の会社として知られています。しかし、その事業発展の第一歩は、1980年代半ば、ビデオデッキの輸入代理販売からスタートしました。王社長は中でも、当時のソニーとの付き合いにより、たいへん「意外な収穫」があったと言います。
「ソニーはハイクォリティの製品で知られている企業です。しかし、そのソニーが中国に進出するやいなや、メンテナンスサービスセンターを設置しました。当時の私には、メンテナンスというと、品質の悪い製品に対応するものだというイメージがありました。ソニーの製品は値段が高く、品質も良い上、進出しかけの頃はまだ修理なんて心配する必要もないのにと、ずっと疑問に思っていました。しかし、ソニーとの付き合いで彼らが製品に対してこんな考えで臨んでいることが分かりました。つまり、どんなに良い製品でも故障する時がある。時間が経つにつれ、部品を取り替えなければならなかったり、場合によっては、製品の使用に支障を来たしたりするかもしれない。このようなことが起きる前からメンテナンスセンターを整備しておかないと、設備の正常な運営に支障を与えかね、顧客のニーズに影響しかねない結果になる。その考えが私に強い影響を与え、そこから消費者向けの『アフターサービス』ということを初めて知りました。」
中国本土で初の不動産物件管理会社を設立
ソニーのビデオデッキの代理販売で資金を蓄えた後、1988年、王石氏の会社の社名は「深セン万科企業株式有限公司」に改め、メーン業務も徐々に不動産投資に変わってきました。不動産業界の新人だった王石さんは、その手がけた物件で、中国本土で初の試みを始めました。それは、不動産物件管理会社の設置です。
「ソニーのアフターサービスに関する考えからヒントを受け、不動産物件という商品も売却した後、アフターサービスを提供する必要があると気づいたからです。」
中国の住宅はそれまで、主として、勤務先から配分されるもので、住宅の管理は勤務先の一部門がまかなっていたため、「不動産管理」という考えが人々の意識にはなかった斬新な発想でした。
ビデオデッキの販売事業をやめてもう久しく、不動産ですっかり成功を勝ち取った王石さんは数年後、ソニーの出井伸之CEOと会うチャンスがあり、万科がアフターサービスを重んじることのきっかけはソニーにあると伝えることができました。
「万科は今も、お客さんへのアフターサービスを怠っていません。私たちのこの姿勢に対し、市場からも万科が不動産管理のしっかりしている会社だという好評を得ています。このコンセプトは日本企業から教わったものなので、この場を借りて、日本企業に対する敬意を表したいです」。(つづく)
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