新しい中日経済関係の扉になるか 東京証券取引所が北京に駐在員事務所を開設
今年の1月18日、ニューヨーク証券取引所とナスダックに続いて、東京証券取引所が北京に駐在員事務所を開設した三社目の外国証券取引所になりました。2月22日、東証北京事務所の開設を祝うレセプションが釣魚台国賓館で開催され、中日両国の証券当局、証券会社や経済界から約200人が参加しました。両国の関係者が鐘を5回打ち鳴らす「打鐘」を行って、事務所の開設を祝いました。
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打鐘式 |
■中国と共存共栄を目指す
東証にとっては、今回の北京駐在員事務所はニューヨーク、ロンドン、シンガポールに次ぐ四番目の海外事務所となります。北京事務所の開設をめぐり、東京証券取引所の斉藤惇社長は意気込みを語ってくれました。
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斉藤惇社長 | 「今や世界の国々の中で、最も活力に溢れているのが中国だと思います。長期にわたって高い経済成長率を実現しておられる姿は、隣国から見てもうらやましく思うくらいです。私ども東京証券取引所が、とりわけ、アジア地域の中で効率的な資金循環を実現できるためのお手伝いをさせていただく上では、成長著しい中国市場のエネルギーを共有させていただきながら、中国と日本の共存共栄を目指して生きたいと考えております。」
中国が外国の証券取引所に対し、北京に事務所を開設することを許可したのは、去年からでした。これまでに、海外の証券取引所に上場した中国本土系の企業はロンドンに68社、ナスダックに50社、ニューヨークに39社となっています。活発な欧米市場での上場に対して、東証に中国本土の企業が上場したのは去年からで、その数もまだ2社程度に止まっています。東証は今回の北京事務所を開設することで、中国企業の東証上場に本格的に取り組んでいくと見られています。
■情報発信の拠点に
流暢な中国語が話せる初代所長の山本秀樹さんに、事務所の概要について聞きました。
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山本秀樹所長 |
「北京事務所はとりあえず2人。この後は4人体制でやります。中国からの日本のマーケットに関する問い合わせ、また中国の方に日本のマーケットを紹介する拠点にしようと考えています。
中国の方々はナスダックやロンドンのマーケットを良く知っていますが、東京は近い割に、皆さんご存知じゃないです。今、経済、貿易の交流も両国間で密接ですので、ぜひ資本市場でも互いに、両国のマーケットで上場してほしいと思いますし、北京駐在員事務所は投資の窓口として貢献してまいりたいと思います。」
日本のマーケットの情報を中国に伝え、また、中国のマーケットで集めた情報を日本にバックする。東京からの情報発信をすることにより、中国企業に東証をアピールし、また、中国の証券当局や取引所との連携を強め、双方向の資本交流を促していく。これが東証が北京で事務所を開設した目的と言えましょう。
■金融が中日戦略的互恵関係の一部
ところで、中国と日本の証券界の交流は11年前の1997年に遡ることができます。当時、両国政府の証券当局が覚書を締結したと共に、東証は中国証券監督管理委員会と趣意書を交わし、上海証券取引所や深セン取引所と業務協力を行い、情報交換や人材交流で連携を深めてきました。しかし、中国と日本の経済交流は長い間、直接投資や貿易がメーンの形になっていることも事実です。
北京駐在の宮本雄二日本大使の話です。
「一昨年の10月に、安倍首相が訪中した時、戦略的互恵関係というのを始めました。その中に、新しい日中関係の重要な分野として、実は、金融の分野が入っておりました。私はずっと金融分野での関係の強化を待ち望んでいましたが、ほかの分野に比べて、ちょっと遅れておったというのが実感でありました。東証北京事務所の開設を契機としまして、日本と中国との間での金融、投資部分の協力関係がさらに拡大することを、ここにおります大使として心から期待しています。」
■「北京事務所の開設は東証の姿勢の表れ」
中日の資本交流が、貿易や直接投資などの経済関係の発展よりも著しく立ち遅れている中で、東証は今回、北京で事務所を開設しました。では、両国の関係者はこの動きをどのように受け止めているのでしょうか。セレモニーに参加した方たちにマイクを向けてみました。
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アジアメディア社 崔建平CEO | 去年4月、東証のマザーズで最初の中国本土企業として上場したアジア・メディア社の崔建平CEOは東証での上場が会社の発展にとって、全体的に良い業績を上げたと満足の気持ちを示して、次のように話しました。
「北京事務所の設置は東証の姿勢の現れで、とても良いことだと思います。海外の人に東証を理解してもらうには、窓口が必要なので、今回の北京事務所の設置は、すなわち、東証の国際化、そして、中国企業の上場をひきつけたいという姿勢を表したものだと思っています。」
東京から駆けつけた日興アセットマネージメントの宮里啓暉本部長は、東証北京駐在員事務所の開設をたいへん高く評価しました。
「今晩のセレモニーは決して普通の代表所の設立パーティーではありません。歴史に残る大きな行事で、大きな時代の到来を意味するイベントなのです。
日本経済と中国経済はこれまでは草の根レベルでの交流がメーンで、金融分野の交流はまだまだ薄かったです。東証北京駐在員事務所の設立が両国の金融分野の交流においてたいへん良いきっかけになると思います。日本の代表的な証券会社のトップがこうやって一度に会すことは、日本でもなかなかありえないことです。今晩の会に参加できて、ほんとに良かったと思います。」
■斉藤惇社長の語る東京マーケットの特色
ところで、何故、東証で上場する中国企業の数が少ないのか。この阻害要因について、これまで数多くの人から指摘されたことは、たとえば、財務諸表はすべて日本の会計基準に従って作成することや、資料はすべて日本語で提出することなど、手続き面での制約です。これらの苦情に対しまして、斉藤社長は記者会見で、今後は世界共通のやり方で対応できるようにし、もっと多くの中国企業が東証に上場できるよう環境を整えていくと積極的な姿勢を見せました。
一方、中国の金融市場の開放に伴い、これからはロンドン、シンガポール、韓国などの証券取引所も相次いで北京に事務所を開設する予定です。こうした中で、果たして日本マーケットの優位性はどこにあるのか、企業や投資家が関心を寄せていることです。
これに対して、記者会見での東京証券取引所の斉藤社長の答えです。
「日本の個人金融資産が1500兆円(約12.5兆ドル)に達し、世界最高です。この部分の資産は大部分がまだ国内にとどまっており、しかも、銀行の貯金金利はわずか0.3ー1%とたいへん低いです。東証としては、これらの資金を中国やアジアの中堅企業に長期的、安定的に供給して、アジアと一緒に経済を発展していきたいと考えています。このことはアジアや中日両国にとっても意義のあることなので、これからもしっかりやっていきたいと考えています。この点において、欧米の証券取引所と根本的に違うと思います。」
短期的な利益を求めるよりも、近隣でもある中国、そして、アジア諸国と共に経済を発展させ、高度成長の成果を分かち合いたい、そのために東証が資本市場の交流を通して、協力をしたいと斉藤社長は語っています。
■双方向交流の時代が来る
一方、WTO加盟と共に、中国の資本市場の開放度は益々高くなり、世界市場とのつながりも深くなりつつあります。去年、中日合弁による証券会社やファンド管理会社が相次いで中国で設立され、日本の金融管理会社6社が中国で投資する資格を持つQFII(指定海外機関投資家。中国の指定する海外の金融機関を通して、海外の投資家が大陸市場へ投資できる制度)に指定されました。その投資枠は全部で12億ドルに達しています。このほか、数多くの中国の投資家はQDII(「指定国内機関投資家」。一定条件を満たした中国国内投資家に、指定された金融機関を通して海外の投資を認める制度)を通して、日本を始めとした海外市場にも投資するようになりました。
こうした動きに対して、東京証券取引所の西室泰三会長は積極的に評価しています。
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西室泰三会長 | 「やっぱり相互交流が良いと思います。日本の企業は中国に来て、上場したり、仕事したりし、中国の企業も日本に来て、上場したり、事業をやったらいいと思います。
これから先は一方通行ではなくて、双方向のお互いの協力をしっかりと考えていく必要があります。つまり、片方だけが得するのでなく、お互いが利益になること。投資にしろ、日本から中国にだけでなく、中国から日本も投資してほしい。色んな証券会社もそれぞれが進出して、それでやっていくというふうな互恵の形が作れれば一番良いだなと思っています。」
東京証券取引所の斉藤惇社長は、とりわけ、両国の経済交流における資本交流の重要性を重視し、次ぎのように指摘しました。
「資本の交流なしでは、本当の産業交流というものがないですね。日本とアメリカの間に、最初はカラーテレビを輸出したり、そういうことばかりしていました。 段々とやっぱり資本の交流になりました。中国と日本の間もそうなると思います。両国関係においては、資本交流がないと、まだ片方通行なんですね、産業だけでは。 資本と産業は両方、交互に行ったりきたりする。とくに、日本のお金をつかって、中国の企業が伸びるとか、日本の企業が中国でファイナンスするというのが、実現したらいいのですね。」
■政府関係者の期待
東証の北京事務所開設セレモニーに両国の政府関係者も参加しました。それぞれ東証にどのようなことを期待しているのでしょうか。
まずは、中国証券監督管理委員会のヤオガン主席補佐の話です。
「日本のマーケットはたいへん成熟した市場であるのに対して、中国のマーケットは急速に伸び続けている市場です。日本の経験とノウハウを学びながら、互いの協力関係をさらに推し進めていきたいと思っています。
東証北京駐在員事務所は今後、中日間の証券分野の交流を促す架け橋となることを祈り、そして、代表所の仕事の成功を祈っております。」
続いては、日本の渡辺善美金融担当大臣の話です。
「なんと言う変りようでありましょうか。この16年の間に、中国がたいへんな成長を遂げたこと。我々はほんとに驚きと羨望の目で眺めてみました。名目成長率では、中国は16.2%。日本は0.8%。まさに、日本は中国を初めとしたアジアの経済成長のエネルギーを取り込んでいくことが必要であります。日中両国の金融資本市場は、お互いに連携しあうことで、たいへんな相乗効果を発揮できることを信じております。今回の北京事務所の設立はその大きな第一歩であります。」
最後は、日本の宮本雄二大使の話です。
「今年は平和友好条約30周年、胡錦濤国家主席も10年ぶりに訪日されます。もちろん、五輪も開かれる重要な年でもある。ぜひとも代表所の開設を契機となって、今年はさらに日中関係が発展できることを心から祈っています。」
■新しい中日関係の大きな扉になるか
中国にも日本にも、高いリターンを求めて、投資対象を国内企業に限らず、全世界に目を向けている投資家が増えています。こうしたニーズに答えるため、両国の証券会社は具体的な金融商品の開発で提携を始めています。東証としては、単なる中国企業の日本上場だけでなく、もっと大きなスケールで両国の金融・資本交流に役割を発揮することも期待されています。
東証北京駐在員事務所の開いた窓口は、今後の両国の新しい経済関係につながる大きな扉になるかもしれません。(取材:王小燕)
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