安徽省南部の績渓県は世界自然・文化遺産の黄山から車で30分のところにあります。ここは黄山市と肩を並べて、徽州文化の発祥地の一つです。山間地帯が多く、緑豊かな自然景観に恵まれています。明や清の時代には、塩などの売買で富を手に入れた大商人が輩出したため、昔風の立派な建物が残されている村落が今も健在です。
(村の入り口)
豊富な観光資源に恵まれている績渓県は、最近、農村観光の開発に力を入れ、それに伴い、出稼ぎ労働者が故郷に戻ってきています。
龍川は、績渓県の県庁所在地から11キロの山間部にあります。人口は約3400人。村は一本のせせらぎを中心に作られ、空から見下ろせば、船の形に見えます。ここは代々「胡さん」という苗字の宗族が暮らしている場所です。
龍川の観光開発は2年前にスタートし、現在の観光客は年間延べ25万人に達しました。この龍川の観光開発は、主として、績渓県の民営企業、「航佳集団」が手がけたものです。
航佳集団は、10年前、シルクの製糸工場からスタートし、現在は、シルクの生産の他にも、観光、不動産開発、教習所の運営、電力、などを多角経営する民営企業グループに成長しました。グループ代表のヤオ・民和さんはもともと地元の農民でしたが、幼くして両親を失い、大勢の人に助けられながら大きくなったという企業経営者です。幼い頃の体験がヤオさんのその後の企業活動と社会貢献活動に土台を築きました。
(洪万智マネージャ)
航佳龍川観光開発有限公司の洪万智総経理によりますと、龍川村は昔は経済発展の立ち遅れた貧しい山村でした。観光資源に恵まれているものの、資金の調達力が不足していました。このような龍川の発展を促し、村人の生活を改善するため、政府は地元を代表する民営企業・航佳集団に開発の協力を要請しました。
2002年に、政府と開発に関する協定を結び、開発計画書は2004年3月に採択され、工事は三期に分けられて進められることになりました。古代の徽州文化の特徴を生かし、村落や古代建築群、文化財の見学、地元著名人の記念館の建立などの内容が盛り込まれています。
「一期目に6000万元を投資しました。先ずは、水道の敷設、水洗トイレの導入、電線やケーブルなどの埋め込みなど、インフラの整備を行いました。それから、文化財の保護にお金をかけました。例えば、村に敷かれていた石畳はすでに破損していましたので、よそから古い石畳を買い集め、敷きおなしました。さらに、川沿いに古風な建物48店舗からなる商店街を整備し、村人たちに無料で貸し出しました。」
航佳グループは村の観光開発を請け負った見返りに、本来は地元政府が取り組むべき村のインフラ整備を担いました。こうした動きを洪さんから、興味深く聞かせてもらいましたが、それによれば、インフラ整備だけでなく、航佳グループは村の60歳以上のお年寄りのため、共済保険も導入し、その加入費用も負担しています。これらはすべて、政府が進めている新農村建設の一環でもあります。
龍川を訪れる観光客は急速に増えていますが、現在のところ、ここは依然として、農業が主要産業です。しかも、山間地帯のため、土地がたいへん少なく、一人当たり3アールももらえません。このため、一時期、若者の多くは都会に出て、出稼ぎをしていました。村が観光開発を初めてから、静かな変化が起きました。それは、出稼ぎに出かけた若者たちが戻ってきたことです。
村の入り口で、丸くて熟れたりんごのようなほっぺたをしている笑顔のガイドさんが、欄干に腰をかけて、お客さんを待ち構えていました。
「胡芳です。19歳です。以前に半年だけ、広州のスポーツ用品店で店員をしていました。しかし、母親は私を遠くに行かせたくありませんでした。丁度、村の観光開発で、ガイドが不足していたので、さっそく申し込みました。村に残って就職できたのは、本当に嬉しいです。」
入場券の改札を担当しているのは、以前、左官だった中年男性の李さんです。彼は昔、出稼ぎで全国各地を歩き回っていました。今、彼の仕事はペンチを手に、来客の入場券に穴をあけることです。
「立ちっぱなしの仕事は最初はきつかったですが、今はもう慣れました。観光開発のお蔭で、村に残っていても、出稼ぎに劣らない収入がもらえるので、観光業を発展させることはとても良いことだと思います。」
都会からUターンした人はこのほかにもたくさんいます。村の中心地帯、しだれ柳の街路樹が生い茂る川沿いをぶらぶら散歩してみました。骨董品のレプリカやお土産などを扱う店の軒先で、竹で編んだ小さな椅子に腰を掛けて、本を読みながら、日向ぼっこをしている男性がいました。
「胡華です。31歳です。この土産店は半年前に開業しました。それまでは、妻と子どもをつれて、1200元の月給で、杭州で調理師をしていました。故郷にも働くチャンスができたと聞き、さっそく、家族で引き上げて来ました。」
胡華さんの店のすぐ隣は飲食店です。店構えは大きくなく、四角い机を3つほど並べるスペースしかありません。2階は一家の住まいになっています。オーナーの胡さんの話です。
「以前は町で小さな店を経営していた。生まれ故郷の村が観光開発に乗り出したと聞いたとたん、自分も貢献しなくちゃと思って、3年前に戻ってきました。もっと開発の歩みを速め、もっと大勢の人に来てもらいたいですね。」
龍川の観光開発はまだスタートしたばかりですが、村人たちの強い期待の声が聞き取れます。観光開発と新農村建設を結び付けて取り組む、民間資本の力を存分に発揮させ、地元住民にもメリットが享受出来るようにする。このような良い循環を目指していることが、龍川の観光開発の特徴だと言えます。
航佳龍川観光開発有限公司の洪経理は、龍川村は今後、古代の建物を利用した観光だけでなく、山間地帯の特色を生かした果樹の栽培や釣り堀、観光業と結びつけた水産物の養殖などにも力をいれ、龍川をどんどん魅力的な観光・レジャー地区に仕上げていきたいと紹介してくれました。
企業の発展と農民の暮らしの向上、ぜひとも、これからもこの二つが両立できるよう引き続き頑張ってもらいたいものです。(取材・文:王小燕)
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