中国国務院に属する国家言語文字委員会がこのほど、中国の少数民族の言葉と地方の方言を記録する「言語資源音声データベース」の設立に乗り出し、10月11日に、江蘇省蘇州市でこのデータベースに関する会議を開いた後、早速方言の録音を始めました。
蘇州の辺りで話す言葉は、「呉の方言」で、今の日本語と関わりがかなり深い言葉です。調査チームは南京大学、南京師範大学、蘇州大学の3校から来た言語の専門家から構成され、まず、蘇州市内と、そこからほど近い常熟、昆山で、方言を話してくれる人を選びました。生まれ育った場所を離れず、他のところで長く生活したことがない人に限られています。方言の話し手は、与えられた文字、単語、センテンス、物語をマイクに向けて読み、専門家はそれを聞きながら、世界で通用する音声記号で印をつけていきます。
このニュースを聞いて、私はほっとしました。中国の55の少数民族の一つ、シェー族の1人である私は、実は民族の言葉の伝承で悩み続けてきました。シェー族は、主に中国南東部の浙江省や福建省などで暮らす、全国で70万人ぐらいの少数民族です。シェー族には独自の文字がないので、民族の文化は、風俗習慣や民族の歌謡、踊り、工芸などによって、受け継がれています。この伝承の際に、シェー族の言葉・シェー語が、重要な役割を果たしています。私の場合、生まれてからまず覚えたのは、シェー語です。小学校に上がる前には漢民族の方言を、そして小学校に入ってからは、標準語を身に付けるようになりました。しかし次の世代はどうなるでしょう。漢民族と結婚して生まれた子供たちはもちろん、シェー族同士の間に出来た子供さえ、幼稚園から標準語を話すことが当たり前になりました。このままだと、シェー語を話せる人が少しずつ減っていき、ある日地球上からいなくなるかもしれないと不安でなりません。
2003年、蘇州大学の汪平教授は、小学校2年生から高校2年生までの学生を対象に、「呉の方言」(蘇州語)の使用状況について調査を行いました。9割の学生の両親は蘇州で生まれ育っていますが、「蘇州語で勉強のことを話し合うことは可能か」との質問に、半分以上の学生は、「いいえ」と答えました。7割の学生は、蘇州語より、標準語を使いこなしています。さらに、地元の幼稚園では、蘇州語が分からない子供が増える一方です。
国は、早くから全国規模で「北京語を基準にしてできた標準語」の普及に力を入れ、憲法にさえ盛り込みました。標準語の普及によって、全国各地で人々の交流がスムーズに行われるようになったのは確かなことです。私が生まれ育った浙江省の中部にある山間地帯では、一つの山を隔てただけで、異なる方言を使います。今の若者たちは、標準語が話せる人がほとんどなので、近くだけではなく、どこへ行っても言葉の壁はないと言えるでしょう。しかしそれと同時に、少数民族の言葉と方言をいかに次の世帯に伝えていくのかが大きな課題になります。
今年の初め、90人以上の学者による調査・研究の成果をまとめた著作『中国の言語』が出版されました。それによりますと、漢民族を含めた中国の56の民族は、合わせて129種の言葉を持っているということが分かりました。2種類以上の言葉を操る民族もすくなくありません。
そのうち、漢民族は、漢語のほか、臨高語、標語、村語、茶洞語を使っている人々もいます。例えば、南の海南島臨高県に暮らしている50万人余りが、自らのことを漢民族であると国に申し込みましたが、話している言葉は漢語ではなく、地元の少数民族の言語と同じ語系に属するものです。また、広東省の懐集県に住む7万人の漢民族は、「標人」と称し、話している言葉は独特なもので、「標語」と認定されました。
少数民族のうち、同じ民族でも、住む場所によって言葉が違うケースもありますし、同じ場所に住んでいても、数種類の言葉を同時に使うケースもあります。
この本によりますと、129種類の言語のうち20種類が1000人によって使われ、絶滅に瀕しています。「ムラオ語」という言葉を話せる人は、わずか2人で、2人とも80歳を超えたお年寄りだそうです。全国の言語音声データベースは大きなプロジェクトで、かなりの時間がかかりそうです。お年寄りがまだ生きているうちに、早く録音をすませてほしいと思います。(編集:藍暁芹)
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