馬俊海さんは、中国北西部の寧夏回(ホイ)族自治区固原市の出身。回族は中国に暮らす55の少数民族の一つで、イスラム教徒でもあります。馬さんは高校卒業後、寧夏イスラム教経学院に入学してアラビア語を身に付け、2000年には、アジア最大の卸売り市場とも呼ばれる浙江省義烏(イーウー)卸売り市場でアラビア語の通訳をするようになりました。
義烏(イーウー)卸売り市場には、中国全土からいろいろな商品が集まってきていて、その商品を買い付けに来るバイヤーは中国国内のみならず、世界中から訪れています。統計によると、義烏で扱われる商品の7割を中東や北アフリカなどのイスラム国家の卸売業者が買っているということです。これらアラブ諸国からの業者は、異国の地・義烏(イーウー)でアラビア語を使いこなし、イスラム教徒でもある馬俊海さんと出会うと、自然と親しみを感じるそうです。馬さんは、そんな自分の長所を活かし、2002年にみずから会社を興すことにしました。しかし、立ち上げたばかりの会社にとって、最初の得意先を見つけることは簡単ではありません。馬俊海さんは、時間が許す限り、市場の中を歩き回っていました。
そんなある日のこと、馬さんは、市場の中をうろうろしているアラビア人に気付きました。顔はほこりまみれ、着ている服はぼろぼろ、しかも靴を見れば、革靴の先から親指が顔を出している状態で、どう見てもビジネスマンではありません。馬俊海さんは思わず声をかけていました。
その人はセリムという名前で、アルジェリアから初めて義烏にやって来たそうです。仕入れのために2万ドルを持ってきていたのですが、市場の商品の種類が想像以上に多く、何を買ったらいいか、この数日、ずっと悩んでいたのです。
馬さんは、セリムさんの話を聞いて、「私の知る限り、これまでアルジェリアの業者が仕入れたことがないものが一つあります。それは、綿が入ったスリッパです」とアドバイスしました。
ただ馬さんには、気になることがもう一つありました。それは、セリムさんが持ってきた仕入れの資金が余りにも少なかったということです。義烏からアルジェリアに送る商品は通常、貨物船で運ばれますが、運送業者が扱う商品の量は最低でもコンテナ一つ分です。もし高価な商品を買い付けてしまうと、コンテナ一つ分にもならないのです。
セリムさんは、馬さんのアドバイスにうなずくことができません。アルジェリア国内で売られているスリッパのほとんどが、イタリアとスペインから輸入したものです。一足が数十ユーロ、あるいは数十ドルです。中国で、わずか2~3元で仕入れた綿入りのスリッパが売れるかどうか、全く自信がなかったのです。
それは馬さんも同じでした。ただ、「他の人が売っていない商品なら、成功する見込みが高い。その上、価格も売り手が決められる」と思っていました。
セリムさんはこれまでビジネスの経験がほとんどなく、さらに2、3日考えましたが、馬さんの言う通り、2万ドル分のスリッパを仕入れることにしました。ところがセリムさんが帰国した後、何の音沙汰もありません。馬さんは、とても心配になりました。
そして4ヵ月が過ぎ、突然セリムさんが義烏に戻ってきたのです。しかもセリムさんの様子はすっかり変わっていました。きちんとした背広に新しい革靴、すっかり元気になっていて、馬さんと抱き合いました。これは親しくなったイスラム教徒のどうしの挨拶です。
あとで分かったことですが、あのときわずか2元で仕入れたスリッパが、45元の値段をつけてもとても売れたそうです。セリムさんは、馬さんの会社に代理店をしてもらい、さらに、自分の親戚や友達を馬さんに紹介しました。これで、馬さんの得意先は一気に増え、馬さんの名前も広く知られるようになりました。
またこの年、馬さんは、傅紅花さんが経営する地元のメーカーとチュニジアのカイマレーさんとの間に起きた100万ドルにも及ぶトラブルを解決したことで、より多くの人から信用されるようになりました。
チュニジアのカイマレーさんは、トランクやバックに使う皮革などを売る業者です。カイマレーさんは130万ドル相当分の材料を、義烏の傅紅花さんから買い付けましたが、代金のうち3割を支払っただけで、1年経っても残りを払うつもりはなかったようです。馬さんは傅さんに頼まれて、カイマレーさんに電話をかけて理由を聞きました。するとカイマレーさんは「コンテナでチュニジアに送った材料は、傅さんの倉庫に長いこと放置してあったものだから、全く売れない」と答えました。言葉が通じないこの二人の間に誤解があると馬さんは判断しました。また、カイマレーさんがイスラム教徒であることを知り、自分もイスラム教徒であることを話し、互いに好感を持つようになりました。その後、カイマレーさんに義烏に来てもらい、傅さんも損失の一部を負担することにより、問題を解決しました。このことを通じて、馬さんとカイマレーさんはビジネスパートナーとなり、親友同士にもなりました。
このように、アラビア語ができるイスラム教徒であることと、人としても誠実な馬さんは、海外のイスラム教徒の業者から信頼され、彼らの代理人となりました。年間の貿易額は4億元を超えたということです。(編集:GK)
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