今度は昔の本「酔茶志怪」から「踏みつけたもの」です。
「踏みつけたもの」(路怪)
町に住む陶さんが、ある日出かけ、帰りが遅くなって戻る途中、暗いので何かを踏みつけた。それはすべすべしたもので、気の優しい陶さんは、飛びのいた後、そのものに「真っ暗で見えませんでした。どうもすみません。怒らないでくだせえ」とお辞儀してそのまま帰った。
そして陶さんが家の庭に入った途端、家の中では何かを投げ、物が壊れる音がした。
「なんだ?なんだ?どうしたんだ?」と不思議な顔して部屋に入ると、部屋の中は狼藉!びっくりした陶さんが、自分に背を向けている妻に聞いた。
「なんだよ。お前、いったいどうしたんだい?」
すると妻は何かに取り付かれたのか、うつろな目をしてこっちを向いたが、すぐにきついまなざしで陶さんに怒鳴った。
「わしは、何も悪いことしておらんのに、なんと変な野郎にふみつけられた!おかげで両脇は痛むし、骨も痛い!きっと仕返ししてやるからな!」
これに陶さんはびっくり仰天。そこで、なにがなにやらわからないでおろおろしていたが、妻は引き続き物を投げ壊す。それにいくら叫んでも。妻は正気に戻らない。そこで、庭に出て壇を設けて食べものを供え、跪いて何度も叩頭したところ、妻が出てきた。また、うつろな目をしている。
「おい!おい!しっかりしろ。いったいどうしたんだよ?」
これに妻がきつい目をして答えた。
「おい!お前はさっき俺をいやというほど踏んづけたな!!いいか!明日、お前はいろいろとうまいものを、さっき俺を踏んづけたところに供えろ!ちゃんとするんだぞ。そうすれば許してやる!さもなければ、お前の家をめちゃめちゃにしてやるからな!それにお前も命も危ないぞ!」
妻はこういって部屋に入っていったので、陶さんがびくびくしながら付いていくと、妻はどうしたことか、床に倒れ気を失ってしまっている。これに陶さんはとうとう腰を抜かしてしまい、その場に跪いてしまった。
「こ、これは、いかん。俺は帰ってくる途中、何を踏みつけたんだろう?悪魔か?それとも化け物か!?」
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