王礎という商人がいて、ふるさとを離れて大儲けし、その金や荷物を船で運び、自分もふるさとに戻ろうとした。が、不幸にも、途中、賊に出くわし、なんと船頭までがぐるになっていたので、全部持っていかれてしまい、残るは命だけになった。それにふるさとまでは、まだかなり道のりがあるのでこのままでは帰れない。
こうして王礎は、岸辺の樹の下で途方にくれていた。
すると、どこからか一人の爺さんが通り過ぎ、王礎のなりを見て聞く。
「どうかしたのかね?まだ働き盛りという年に見えるが、こんなところで何を嘆いておる。男だったらそんなになるもんじゃないわい」
これに王礎は答えた。
「実は私は親の代からここらで商いをしており、今朝早く芦江から、船に金目のものや荷物を積んでふるさとに帰る途中、賊にでくわし、それに船頭もぐるになっていたのでみんな持っていかれました。今となっては、奪われたものを取り戻そうとは思わず、ただ、無事にふるさとに帰りたいだけです。しかし、今は一銭もないので、これでは・・」
これを聞いた爺さん、「ここらで親の代から商いをしていただって?」
「そうですよ」
「あんたは、王礎という人じゃないかね」
「ええ?爺さんはどうして私の名前を?」
「これはこれは、さっきからあんたが話しているあいだにどこかで出会ったような気がしたとおもったら、わしの命の恩人の王さんか!」
「え?命の恩人?」
「ああ。いまから五年前の冬のある晩、あんたは馬車で寿春に行く途中で、一人の酔っ払った年寄りにあった。その年寄りは川辺を歩いていて、かなり酔っていたので足元がふらつき、とうとう冷たい川に落ちてしまったのじゃよ。ところが、金持ちでも気の優しいあんたは、その年寄りを凍るようにつめたい川水から救い出し、その上乾いた服に着替えてくれ、乗ってきた馬車に乗せ、町の宿まで送り、金までくれて去っていったんじゃ。その年寄りがこのわしですよ。まだ。覚えているかな?あんたの名前は後でわしが調べたんじゃ」
「ええ?五年前の冬のある晩のこと?そういえばそんなこともあったような気がしますが」
「覚えておいでか!はははは!これはよかった。王さん、ここでわしにあったからには、もう、心配することはない」
爺さんはこういうと、懐から太い線香を取り出し、王礎にいう。
「王さん、いいかね。まもなく舟が来るからそれに乗っていきなされ。そして明日の四つ時に、この線香に火をつけ舟先に縛りなさい。そうしてしばらく行けば、あんたを呼ぶ声がするから、それに大声で答えなされや。すると、あるものどもがあんたを助けてくれるじゃろう」
「ホントかね」
「ああ。あんたはわしの命の恩人、騙したりはせんよ」
「わかった」
「では。王さんや、達者でな。わしはこれから大事な用があるので・・」と爺さんは言い残し行ってしまった。
さて、一人取り残された王礎は、心細くなってその場にうずくまっていると、一人の男が舟を漕いできて岸に上がり、王礎に乗るよう勧めてから姿を消した。そこで王礎はかの爺さんに言われたとおり、舟に乗り漕ぎ出した。こうして翌日の四つ時になって、爺さんからもらった太い線香に火をつけ、舟先に縛りつけ舟を進めていると、自分の名を呼ぶ声がしたので大声でそれに答えた、すると数人の男が大きめの舟に乗ってきて、どうぞこれに乗ってくださいという。
そこで王礎がその舟に乗ると、一人の男がこれは爺さまから預かったものだとある重い袋を王礎に手渡し、また、この舟には五十袋もの糸が載せてあるので、これも渡すという。
「王さん、わしらはこれで姿を消すが、この先はあんたを守るものがいるから安心していきなされ」と言い残し、王礎の乗ってきた舟でどこかへ行ってしまった。
こうして一人になった王礎が爺さまから預かったものだという重い袋を開けてみると、中には銀一千両が入っていた。
こうして王礎は誰かに守られながら無事ふるさとの戻ることが出来た。そして船に乗せてきた五十袋の糸は屋敷の倉に置いた。
こうして王礎は爺さんからもらった金を基に、また商いを始めたが、ある日の夜、倉の中から音がするので、鍵を開けて入ってみると、糸が詰めてあるという五十の袋の形が変わっている。
「あれ?糸が形を変えたのかな?」と怪訝な顔して袋を開けてみると、なんと中には金貨が詰まっていたではないか。それに袋は五十もあるので、王礎は大金持ちになったわい。
そろそろ時間のようです。来週またお会いいたしましょう。
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