数年前のことです。
中国西部の新疆ウィグル自治区の広々とした草原・・・。カザフ族の若い女性ジャミラさんが、栗毛色の馬にまたがり、駆けています。その前を走るのは、黒毛色の馬に乗るカザフ族の男性ハイサバイさんです。ここで、ジャミラさんは手にしたムチを高く掲げ、ハイサバイさんを何度も打つのです。
美しいジャミラさんは、ハイサバイさんのことを怒っているわけではありません。この動作で「愛する気持ち」を伝えているのです。実はこれは、カザフ族の伝統的な風習「姑娘追」です。「姑娘」は「若い娘」のことで、「追」は「若い娘が若い男を追う」という意味です。カザフ族の集まりで、「姑娘追」がよく行われます。馬に乗った若い男女が遠くへ向かって駆けていきます。男性は女性に冗談を言ったり、また愛を告白したりしますが、女性は、ただ黙って聞くだけです。でも、帰り道は、男性が先を走り、女性はムチを振って、その後を追うのです。
「男性を軽く打つのか強く打つのかは、女性の気持ち次第です」とジャミラさんは笑いながら言いました。ジャミラさんのお母さんは数十年前、「姑娘追」で、ジャミラさんのお父さんと知り合って、結婚したということです。カザフ族の多くの若いカップルはこのような行事を通じて、恋人同士となり、一生の誓いを交わしていました。そして、家族単位で数百キロにわたる草原を転々する生活を送ってきたのです。ただ近年、社会の発展にともなって、カザフ族の生活様式は大きく変わりました。その多くは、「遊牧」生活をやめ、町での定住生活を選んでいます。「草原で馬」の代わりに、セメントの道でバイクを走らせています。「姑娘追」の慣わしも姿を消しつつあります。
草原を保護し、牧畜民が教育と医療の権利を享受できるよう、中国政府は、20世紀80年代から、牧畜民の定住プロジェクトを実施してきました。統計によりますと、新疆では、およそ19万人の牧畜民が遊牧の生活様式を変えたということです。
新疆大学で勉強しているカザフ族の大学生ジェエケンベィケさんは、「今、カザフ族の若者は、好きな女の子に直接気持ちを伝える。あるいは、携帯電話のショートメッセージや電子メールを使って告白する」と話します。
現在、「姑娘追」は、民族の風習としてでなく、お祭りなどで、観光客向けに行う出し物の一つとなりました。ジャミラさんとハイサバイさんは、「姑娘追」で結ばれる最後の世代となるかもしれません。
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