今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
この時間は、清の怪異小説集「聊斎志異」から「蛙の神」、それに「酉陽雑
俎(しょ)」から「息子の嫁にした女子」というお話です。
最初は「聊斎志異」から「蛙の神」です。
むかしむかし、南の江漢一帯では蛙を神として祠などに祭っていた。というのは、蛙の神は巫女を通じてその考えを伝えるという。つまり、巫女が蛙の神の怒りや喜びを悟り、みんなが集まって蛙の神の機嫌伺いしたときに蛙の神の機嫌がよければ、人々に福をもたらし、そうでないときは災いが来るという。もちろん、これを信じないもののいたという。
さて、当時、周倫蜀という豊かであるがけちな商人がいた。
当時、町では、蛙の神を祭る祠を建てることになり、人々はそれぞれ金を出したのに、周倫蜀だけは一銭も出さすに知らん顔していた。
そしてそれは、ちょうど蛙の神の機嫌伺いの季節だったので、ある日、皆が集まり、この機嫌伺いをした。そして巫女が呪文を唱えでから黙った。やがてこういう。
「わしは、祠を建てるための金品集めに参った。さて、そのことを書き記したものを持ってまいれ」
そこで、係りのものがそれを持ってくると巫女は「これまで金を出したものはもうよい。しかし、まだ寄付しておらんものは、自分で申し出よ」
こうしてそれまで寄付していなかったものはその場で自分はいくら出すと書き記したが、一番後ろにいた周倫蜀は顔を真っ赤にして黙っていた。
そこで巫女が、「周倫蜀はどこにおる?」と聞くので周倫蜀は仕方なく前のほうにおずおずと出て行った。
「その方が、周倫蜀とのうすものか?」
「そ、そうです」
「ここに、銀百両と書き記せ」
「え?銀を百両も?」
「そうじゃ」
「そんな!それは多すぎます!」
「何を申すか。そのほうは汚いことに銀二百両も使っておるのに、町のために銀百両出すことを惜しむつもりか?」
「そんなことまでご存知だったのですか」
「あたりまえじゃ。そのほうが、私利私欲のためやったことがばれて、仕方なく銀二百両でことを丸めたのではないか」
「わ、わかりました。銀百両を出します」と周倫蜀は仕方なく、言われたとおりに書いた。
こうして周倫蜀は家に帰ったが、このことを妻に話すと、「お前さんもどうかしてますね。それはきっと巫女がお前さんをだましているんですよ。何が蛙の神ですか!」
「うーん。そうかもしれんな。では、出すのをやめとこう」ということになり、そのあと、かの巫女がなんども銀百両をもらいに来たが、周倫蜀は、横目でにらむばかりで一銭も出さなかった。
と、それから数日たったある日、周倫蜀が家で昼寝をしていると、庭で牛が息遣いをしているような音がした。これに驚いた周倫蜀がさっそく庭を見ると、大きな蛙がいて、クワッ!クワッ!と鳴いた。この声に妻も驚き、がたがた震えだした。
これに周倫蜀も戦き始め、金を取りに来たなと悟ったので、その場で土下座して、いまは銀三十両を出し、残った七十両はそのうちに必ず出すからといったが、蛙はその場を動かず、ただ、クワッ!クワッ!を鳴いているだけ。
そこで周倫蜀は、いま、銀五十両を出すと言うと、蛙の体は半分小さくなっただけ。そこでまた二十両出すというと、蛙はさらに小さくなり、のそのそと庭の壁の下にある穴から出て行った。
こちら周倫蜀と妻は、大きな蛙が本当に現れるとは思ってもいなかったので、次の日に周倫蜀が銀五十両を巫女のいるところの係りのものに届けた。
「うん?けちな周倫蜀が自分で金を送ってきたぞ」と係りは首を傾げたが、周倫蜀はかの銀二百両で済ましたことがばれるのを恐れ、ただ黙っていた。
数日後、かの巫女が周倫蜀の家へきて、まだ五十両出してないのに、どうして届けないと聞くので、周倫蜀は次の日に銀十両を届けた。
数日後、周倫蜀夫婦が昼餉を取っていると、なんとまたあの大きな蛙が来た。そして怖い目で周倫蜀をにらんだ。周倫蜀と妻が黙って震えていると、蛙は部屋に入ってきて暴れまわった。それでも周倫蜀が金のことを言わないので、今度は庭に多くの小さな蛙が集まり、周倫蜀の家を荒らしまわり始めた。これはたまらんと周倫蜀は、すぐにまだ出していない銀四十両をいまから届けに行くといったので、大きな蛙は多くの小さな蛙と共に一瞬のうちに姿を消した。そこで、もう恐ろしいことはたくさんだと周倫蜀はすぐに金庫から銀四十両を出すと、巫女に届けにいった。こうしてそのときから蛙は周倫蜀の家には現れなかったという。
さて、祠ができた後、いろいろな行事をやるには金が要る。そこで巫女は祠を建てようと呼びかけた15人の町の顔役を呼び出し、金を寄付しろという。
これに顔役たちは「何を言うか!私らはすでに金を寄付しましたぞ」
そこで巫女は言い返す。「この中にみんなが寄付した金を自分のものにしたものがいる。そんなことは許されませんよ。罰が当たればどんな災難が降りかかるかもね!」
これを聞いたそのうちの一人、蛙の神の罰が当たったら大変だと思い、黙って家に帰ると押入れや引き出しを開けてやっとのことで銀七十両を集め、その足で巫女のところに行って自分は銀百両を騙し取ったが、ここに七十両ある。そのうちに残った三十両をなんとかして返すと言い出したので、その場にいた何人かの顔役もおそろしくなり、さっそく家に帰り、金を持って巫女のところに届けに来た。
しかし、一人だけ、蛙の神の威力はまだ見たことがないし、罰が当たることをあまり信じない顔役がいた。この顔役は、そのまま知らん顔をしてすごしていたが、半月あまりたったある晩、大きな蛙が夢に出てきて、横取りした金をおとなしく出せという。夢から覚めたこの顔役は、これは夢だとそのあとも平気で過ごしていたが、そのうちに体に多くのできものができ始め、そのうちにひどくなり、医者に見てもらったがなかなか治らず、なんと半年後にやっと治ったという。そしてそれを治すため、銀四百両も使ったというわい。
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