この時間は、くいの杭州に昔から伝わる「足の悪い医者」というお話をご紹介しましょう。
「足の悪い医者」
いつのことかはっきりわからん。くいの杭州の鼓楼という建物の近くを流れる川に名もない石の橋が架かっていた。そして橋のたもとにどこから来たのか、できものを直せるという医者が、大きな傘を立て、その下で壊れた大きな薬箱を横に置き、できものを治すという。そして、夜はその大きな薬箱の上で休んでいた。この医者は、おでこが大きく、太い眉毛に高い鼻、四角いあごにひげを生やしていたが、どうしたことか、足が悪くて歩くのも大変だった。
もちろん、これを見た道行く人々は、医者のくせに自分の足も治せないのだから人のできものなど治せるはずがないと、誰も相手にはしなかった。しかしこの医者は、そんなことを気にする様子はない。
さて、数日たったある日、三年前に足にできものができて、いろんな医者に見てみらったが、少しも治らないので苦しんでいるという男が、この杭州にきた。そして数人の町医者に見てもらったところ、やはり治らないので、男は今度も諦め、町を去ろうとしたが、橋のたもとに来たとき、この足の悪い医者をみつけ、どうせだめだろうと思いながらも、しばらく考えた挙句、試しにこの医者に見てもらうことにした。
「あんた、できものを治せるのかい?」
「ああ、できものなら何でも治しますよ」
「しかし、あんたも足がわるいね」
「いや、これは別ですわい」
「ほんとに治せるのかい」
「そんなことをいわず、あんたのできものをまず見せなさい」
「そりゃあ、いいけど」と男は、首をかしげながらも自分のできものがある足をみせたところ、医者は「ああ。これなら治せますぞ」と薬箱の中から黒い紙に黒い脂薬(あぶらぐすり)を塗った膏薬を取り出し足に貼った。
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