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墓場の道で
   2007-06-05 15:41:10    cri

 今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。

 この時間は、清代の怪異小説集である「瑩窓異草」から「墓場の道で」、そして同じく清代の「閲微草堂筆記」から「幽霊を売る」をご紹介いたしましょう。

 さて、まずは「瑩窓異草」から「墓場の道で」です。(假鬼)

 「墓場の道で」

 いつのことかわからん。南の広東に住む役人の馬佩宗は、一年に一度は馬車で都に公用で来ていた。そして河南のあるとことろは、いつも決まって夜通り過ぎるのだが、長年使っている御者が、数年前からここを通るときに遠回りしていることに気づいた。しかし、公用で忙しい馬佩宗は、そんなことにはかまわず知らん顔をしていた。と。この年も、夜にそこまで来たとき、御者は遠回りせずに馬車を走らせた。これに気づいた馬佩宗は、急にこのことに興味を持ち始め、そのわけを御者に聞いた。

 すると、御者が一息ついてから答える。

 「旦那さま、実は、この時期になると、ここら一帯では、夜に幽霊が出て、人に害を加えると聞きましたので、わたしめはこれまで遠回りして通っていたのでございます。しかし、去年に、その幽霊が嫁に行ったと聞いたので、今度は安心してここを通るわけでございます」

 「なんと?幽霊が嫁に行く?」

 「はい、旦那さま、かすかに見えてきたと思いますが、あれが墓場でございます」

 これを聞いた馬佩宗が、御者の指差す方を見ると、少しは遠いが月の光の下に確かに大きな墓場が見えた。馬佩宗はそれまでこれに気づかなかったのでいくらか驚いた。そこで御者が、次のようなことを話し出した。

 この墓場には幽霊が出ると恐れられていた。それは赤い服をまとった幽霊で、長い髪の毛をばさばさにし、真っ青な顔をしていて、一人か二人の旅人がここを通ったときには必ず現れて後を追うので、旅人はびっくり仰天。いつも持ち物をほっぽりだして逃げていくという。

 と、ある年、張さんという歳は四十近くの男が、商いで河南からふるさとへ帰る途中、夜半にここを通りすぎた。張さんは、これまで独り者で、この日は、それまでの儲けを懐に、早くふるさとに帰って身を固めようと思い、この道には夜に幽霊が出るといううわさがあることも忘れ、汗を流しながら先を急いでいた。そして、歩きながら墓場が近くにあることに気づき、幽霊が出るとのうわさを急に思い出して体が震えだした。

 「どうしよう、引き返そうか。しかし、もう日が暮れるしな。よし、急いで通り過ぎれば、幽霊も気がつかないだろう。そうするほかはない」と張さんは、疲れていた体に鞭を打つように大きな息をしたあと、歩く足を速めた。と、そのとき、墓のほうからヒューヒューという長い鳴き声が聞こえたので、張さんはびっくりして立ち止まってしまった。すると、一番大きな墓石の後ろから、髪の毛がばさばさになった赤い服をまとった幽霊が、ふらふらと出てきたではないか。これを見た張さんは、来た道を逃げ帰ろうとしたが、幽霊はそれを追ってくる。それに恐ろしさのあまり、右足をつってしまったのか、張さんは思うように走れないので、幽霊はだんだん近づいてくる。

 「これはいかん!いまは自分が持っている金と持ち物と捨てて逃げるしかない。いや、懐の金は、自分がこれまで一生懸命稼ぎ貯めた金だ。ここで金をなくしてしまうと、これからはどうする?うん!何が何でも金だけは渡したくない」

 と決心した張さん、痛い足を引きずりながらも、必死になって走った。しかし、幽霊はやはり自分に追いつきそうになり、ヒューヒューと叫んでいる。これに張さんはもうだめだと、痛い足を止めて勇気を出し幽霊のほうを見て、「どうにでもなれ!」と目をつぶった。しかし、幽霊は自分に追いつくと、だたヒューヒューと鳴くだけで襲ってはこない。目を開けてこれに気づいた張さん、そちらが来ないなら、命がけだとどこからか勇気が出てきて、幽霊に殴りかかった。すると手ごたえがあり、幽霊は悲鳴を上げてぶっ倒れる

 そこで張さんが、幽霊に近寄り足蹴りを加えると、幽霊は女のような悲鳴を上げて「お許しください!どうか。お許しください。お許しください、私を殺さないでください」と、地べたに座り必死にお辞儀し始めた。

 これに張さんは驚き、足蹴りするのをやめた。

 「な、なんだと?私を殺さないでだと?お、お前は幽霊じゃないのか?それにお前は女か?」

 「はい、私は幽霊ではありません。生きた女子です」

 これを聞いた張さん、大きな息をしてから落ち着きを取り戻し、目をこすってからその幽霊に近づき、月の光を借りて相手の体かたちを見てみると、どうも女らしい。

 そこで「女のくせに、こんな墓場の道でどうして私を襲うのだ?」と聞く。

 すると相手が泣きはじめ、しばらくして言い出した。

 「わたしはこの近くのボロ小屋に住むもので、老いた母と二人で暮らしています。しかし、女のわたし一人では母を養っていくこともできず、仕方がないので、墓場の近くに住み、夜になって通りがかりの旅人を脅かして、捨てていったものを町で金に買え、ほそぼぞと暮らしております。こうする以外に私には他の手立てがないのです。また、これまで考えていました・・。この私を偽の幽霊と見破った男の人についていこうと・・」

 ここまで言った"幽霊"は黙ってしまった。そこで張さん、これまでの恐れた気持ちはなくなり、こんなところで暮らしているとはどんな人間だと興味を持ったのか、「じゃあ、お前の家へ連れて行け!」という。そこで"幽霊"は立ち上がり、張さんの前を歩いてかの墓場から遠くない小さなボロ小屋にきた。そして"幽霊"が外から「母さん」と声をかけたので、小屋の中では明かりがつき、"幽霊"が先に小屋に入り、中からどうぞと言って外に立っていた張さんを招いた。そこで張さんが顔をしかめて入ってみると、中は床の上にやせた老婆が座り、周りにはまともなものがなく、それはひどい暮らしをしていることが一目で分かった。

 そこで"幽霊"は、驚きの目で張さんを見ている自分の母の耳元でなにかささやき、自分は外に出て行った。すると床の老婆が張さんに、側にあるボロ椅子に座るよう勧めたので、それまでポカーンとしていた張さん、我に返って座った。すると老婆がしゃべりだした。

 「お客さま。さっきは娘が失礼なことをしました。私は夫を早くなくし、一人娘のあの子を連れて暮らしてきましたが、親戚や頼れる人もなく、とうとう今のようになってしまいましてのう。そこで娘がが考えた挙句、"幽霊"に化けて人を脅かすような恥ずかしいことを思いつき、私がやめろというのに、なんとこれまで、数年もそれを続けてきましてのう。それでこれまでを凌いできたのですワイ。実はこれも娘の考えで、もし、自分が偽の幽霊であることを見破った男の人がいれば、その人の嫁になりたいというのですわい。どうでしょうかのう?娘はもう二十歳を過ぎておりますが、これまで汚れのない身を守ってきましたし、もし。お客さんが、お一人であり、娘を気に入ってもらえば、どうでしょうかなあ。あ、そうだ、お客さんは世帯もちのお方でしょうか?」

 ここまで黙って聞いていた張さんは、しばらく考えてから答えた。

 「はい、私はもうすぐ四十になりますが、まだ一人身で・・」

 これを外で聞いていたのか、かの"幽霊"が化粧などを落として小屋に入ってきた。みると、二十歳を過ぎたばかりの顔かたちは十人並みだが、目のぱっちりした女子であり、張さんをみると顔を赤くしてうつむいてしまった。そして老婆をみると、これは優しい顔になり、同じくうつむいて張さんの答えを待っているように見えた。そこで張さんは考えた。自分はまだ独り者だし、この娘も親孝行者で、母親も正直そうだし、いっそのことこの娘を嫁にもらってしまおうと決心した。こうして翌日、張さんは娘とその母を連れて、身内や親戚もいない故郷へは帰らず、遠い静かなところへいき、娘と夫婦になり、母親を大事にして幸せに暮らしたという。

 ここまで話した馬佩宗の御者が馬に鞭を当てたところ、やがておんぼろの小屋らしいものが遠くにかすかに見えた。

 「旦那さま、あれが"幽霊"に化けた娘とその母親が住んでいたという小屋でございますよ」

 これを聞いた馬佩宗は、ふるさとに帰った後、多くの人にこのことを話したところ、みんなこれにはかなり驚いたというわい!

中国昔話
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