今度は、「閲微草堂筆記」から「幽霊を売る」です。
「幽霊を売る」
献県の景城に姜三莽(ぼう)という怖いもの知らずの男がすんでいた。
ある日、姜三莽は町の酒屋で、幽霊を捕まえて唾を吐きかけると山羊に変わってしまい、それを金に換えたという話を聞いた。
「へえ!幽霊は縄で縛り上げてしまうことができるんだ。知らなかったなあ。それにこのごろは懐もさびしくなったので、酒を飲む金もなくなってきた。ということは、俺が幽霊をとっ捕まえて、唾を吐きかけて山羊に変え、それを売れば金になるんだ。それに毎日幽霊を捕まえれば、いい儲けになり、うまい酒や肴にいつもありつけるというもの。ひひひ、こんなうまい話はない!!」
姜三莽はこう考えた後、次の日の夜に、適当な長さの棒と長い縄を手にし、ひっそりと郊外にある墓場に忍び込み、必死になって幽霊が出てくるのを待ったが、数日たっても幽霊は出てこない。
「おかしいなあ。この前の話では、この墓場でしょっちゅう幽霊が出ると聞いたんだがな。どうしたんだろう?」
こうして姜三莽はその後数日、同じ様に幽霊を待ち構えていたが、幽霊の幽の字も現れん。そこで姜三莽はその墓場をあきらめ、どこかで幽霊が出たという話はないかと人々に聞いて回る。そして、どこどこで幽霊が出たときいたので、その夜は酔っ払ったように見せかけ、その場にいって寝たふりをして幽霊が出るのを待った。しかし、いつまでたっても出てこない。
「どうしたことだ!ここには幽霊はいないのかえ?!っとにもう!今日はこれまでだ!」と帰っていった。そして翌日の夜、霧雨が降る墓場で姜三莽は前日のように酔っ払いをよそおい、墓の側の樹の下で横になっていた。こうして今か今かといらいらしていると、遠くの墓の近くで人魂が三つほど宙に浮んでいるのが見えたので、姜三莽は大喜びでそこに走っていた。が、姜三莽がそこにつく前に、人魂はふと消えてしまい、幽霊なんか出てこない。
「なんだよ。まっていたんだぜ!つまんねえな!」と姜三莽は、悔しそうな顔をしてから、そこでしばらく待っていたが、あたりは静まり返っているだけ。
こうして、このようなことが一ヶ月以上続いたので、当の姜三莽も幽霊を捕まえて金に変えることはあきらめたという。
さて、姜三莽が墓場などに来なくなった数日後の夜、ある墓場では、こんな話が交わされた。
「おい!あの怖いもの知らずの男はもうあきらめて来なくなったというぜ」
「ほんとだよ。こちらは、俺たち幽霊を怖がるものは脅かせて、悪さができるというもの」
「そうだよ。しかし、あんなもの知らずで無鉄砲で、怖いものなしな野郎にはかなわんな。わしらをとっ捕まえようと目の色変えてるんだからなあ」
「そうよ。やつのそのときの目を見たか!?おっそろしいぜ!あれは地獄の閻魔さまの目とよく似てるぜ」
「ああ。思い出してみただけでも、ぞっとするな」
「そうよ、そうよ。あいつが出てくるので俺たち幽霊は我慢して出なくてよかったよ。そうでなかったら、奴に捕まりひどい目にあってるぜ」
「うひ!くわばら、くわばら!」
はい、ということでした。
そろそろ、時間のようです。では来週またお会いいたしましょう。
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