これを聞いた沈鳴皋、友人の邵南叔の面子もあるので、役所の休日とも言える翌日に、友人などを屋敷に呼び、一席設けてこの熊子静を送り出すことにした。
さて、翌日の宴席には多くの人が呼ばれたが、客のほとんどがこの都から来た熊子静という食客をみてをびっくり。かなり醜い上に、読み書きも下手だとと聞いたので、あまり相手にせず、自分たちで勝手な話しをしていた。実は時は夏だったので、宴の途中で部屋に入ってきたハエの数が急に増えだした。これに沈鳴皋や客たちは困りだし、屋敷のものは慌てて迷惑がかからないように、ハエを部屋から追い出し始めたが、このとき、これまで黙って飲んでいた当の熊子静が立ち上がり、「ご主人、私がこれらのハエを何とかしましょう」と言い出す。これに沈鳴皋や客たちはなにか珍しいものを見るような顔をして黙っていた。
すると、熊子静、懐から長めの箸をとりだすと、そばに控えていた屋敷の者にハエを自分のほうに追いやるようにいうと、なんと、その箸で飛んでいるハエを一匹一匹をしっかりつまんで自分の袖に中に入れ始めたではないか。これを見てみんなはあいた口がふさがらない。やがて、熊子静は数百匹もいると思えるハエを一匹残らず捕まえ、すべて自分の袖に中にしまいこんだ。そして、ポカーンとしているみんなの前を通って庭に出て行き、「おまえら、ご主人やお客に迷惑かけるな!」といい、袖口を開けて中のハエをすべて外に逃がしてしまった。すると、ハエどもは熊子静のいったことが分かったのか、すべてが遠くへ飛んでいったではないか!!そして熊子静がいう。
「ご主人、どうもお世話になりました。私はこれで失礼いたします」
こちら我に返った沈鳴皋は、これは只者ではないと悟り、みんなの前で屋敷に留まるよう進めたが、熊子静はもう時が来たといってこれを断った。そこで
沈鳴皋が屋敷の者に金を持ってこさせ、これを路銀に使ってくれと勧めたが、熊子静は頑として受け取らない。こうして沈鳴皋が困った顔をしていると、熊子静は微笑を浮かべていう。
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