「ご主人、あなたの友の邵南叔どのがいわれるとおり、ご主人はよき役人でござるな。私は毎日部屋にこもっていましたが、そのことがはっきり分かりました。ご主人は、邵南叔どのに宛てた手紙で、自分は時には用事が多すぎて、頭が回らず困ることもあると書かれていましたな。いいですか、多くのことをこなすには、一つのことをしっかりやり終わってから次のことに手がけなされ。つまり、わしが一匹のハエを箸でつまんで確かに袖の中に入れてから、次のハエを捕まえるのと同じやり方でござる」
沈鳴皋はこれを黙って聞いていた。すると、熊子静は懐から小さな書き置き帖を取り出していう。
「ご主人、これにいくつか書いてみたが、暇なときに見ていただけんか。いや、これまでおせわになった。ではこれで」
こういって熊子静は、なにか言おうとする沈鳴皋を見て、手を上げてそれを止め、庭を離れ玄関から出てどこかへ行ってしまったという。
こちら、我に帰った沈鳴皋は、客たちが帰った後、書斎で熊子静からもらった書き置き帖をあけてみると、長官としてその土地をよりよく治めるための大事な事柄が書かれてあり、後に沈鳴皋はこれを元に工夫を重ねて自分の仕事をこなしたので、都から褒められたばかりか、地元の民百姓からも喜ばれる長官となったワイ。
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