さて、今度は清の乾隆帝時代に、四庫全書の編纂官などを努めた紀暁嵐の随筆集「閲微草堂筆記」から「袋運び」です。
「袋運び」
いつのことかわからん。怠け者で家財を食いつぶしてしまったという賀さんが、正月を迎えるための金がないので、働きに出ようとせずに、また借りようと思って、この日は山の向うに住んでいる親戚の家に向った。
ところが、この親戚は、賀さんのことをよく知っていて、金を貸すことは何とか断ったが、せっかく来たので飯ぐらいは食べさせなきゃならないと酒を出した。肴は普通のオカズだったが、賀さんにとっては久しぶりの酒なので遠慮せずに飲んだ。そして千鳥足で親戚の家を離れたが、外は月夜。
「ああ!金も借りられずに年を迎えるとは俺もついてねえな、ひっく!」と賀さんはふらふらしながら帰りの道をゆっくり歩いていると、月の光の下に、前のほうで大きな袋を担いで歩いている人の姿がおぼろに見えた。そして相手は歩くのがあまりにも遅いので、ふらりふらり歩いている賀さんでもそのうちにそれに追いついてしまった。賀さんが、相手をのぞき見ると、それは爺さんで、息苦しいのだろう、喘いでいる。
「おう?どうしたんだい?じいさんよ。こんな夜道に、一人で重そうな袋かついでどこへ行くんだい?」
「いや、ここからあまりと遠くない高川まで行くところだが、わしも年だね。荷物が重くてもうクタクタだワイ!」
「それは、大変だな。で、爺さんよ、いったいなにを担いでいるんだい?」
「これかい?これは、金に換えられる・・いや、ガラクタだよ。捨てるのももったいないと思ってね」
「へえ?重そうで気の毒だね」
「ああ、わしにとっては重いがね」
「どうだい?おいらが担いでやろうか?」
「ええ?そうかい。じゃあ。こうしよう。若いのがわしの行くところまで担いでくれれば、わしは、少ないが駄賃を出そう」
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