そこで嫁が戸の隙間から外をそっと覗くと、小さな男の子と女の子が庭の垣根の中から走り出てきて、月の光の下で小さな声を出しながら遊んでいる。
これを見た二人はこんな夜中にどうしたことか不思議がったが、姑が「あれはきっと魔物の子供だよ。もし怒らしたりしたら、ひどい目にあうかもしれないよ」と首をひそめた。そこで妻も恐ろしくなり、二人は庭に出る勇気もなくそのままじっとしていた。やがて庭は静かになったので嫁が恐る恐る庭を覗くと二人の子供の姿はもうなかった。二人は安心し、やっと寝床に就いたという。
さて、次の日、医術の分かる嫁の親戚が訪ねに来たので、嫁は昨夜の出来事をその親戚に話した。するとその親戚はしばらく考えたあという。
「この庭に魔物が住み着いたとすれば、あんたたち一家がこれまで無事に暮らせるわけがない。その二人の子供とは、きっと不思議な効き目のある薬剤が人間の姿になって出たものだ」
「ええ?不思議な効き目のある?」
「でしょうな。もし、その薬剤を手に入れてから蒸して口にすれば長生きできるかもしれませんぞ」
これを聞いた姑は笑って応える。
「でも、庭に出て行くと姿かたちを消してしまうんですよ。捕まえられるもんですか」
「捕まえるのはそんなに難しくはありませんよ。米は天と地の生気を集めてできているので、米を使えばきっと動けなくなるでしょう。」
「ええ?お米で?」と嫁が驚いて聞く。
「そう。ですから、かの二人の子供がでて来たときに、近いところから何とか米を投げつけ、子供の体に当てなさい。そうすれば捕まるでしょう」
これを聞いた嫁と姑は、親戚が帰ったあと相談し、近くの竹林で竹を手ごろな長さに切ったあと、中の節に穴を開け、そこへお米を入れて、投げつけるように振るしぐさを繰り返し、中の米が遠くへ投げ飛ぶようになったのを見てこれでいいだろうと思った。さっそく、この夜は姑が機を織り、嫁がかの米の入った竹を手に、戸の隙間から庭を見張っていた。
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