今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?
こちら北京はメーデーの連休も終わり、一応正常に戻ったようです。みなさんは、メーデーのゴールデンウイークをいかがお過ごしでしたか?
北京からは、毎年のようにこの連休を利用して地方に旅行にいったり、海外旅行を楽しんだり、または郊外に遊びに行ったりした人が多く、それに地方から北京に来た観光客なども目立ったようです。私は、うちのリフォームが終わっておらず、また、7連休などはもらえないので、休みの日は仮住まいでごろごろしてました。もちろん、先週申し上げたように、その日はおいしい料理を肴に好きな酒を楽しんだのは、いうまでのありません。
さて、今日のこの時間は、清に時代の袁枚(まい)という人が書いた「子不語」を言う本から「正直者」いうお話をご紹介しましょう。
「正直者」 (屈丐者)
蘇州の郊外に楓橋鎮というという大きな市場があり、その近くの古いお寺に物乞いをして日々をしのいでいる屈さんが寝起きしていた。屈さんは寺で寝る以外は食っていくために朝早くでかけ、夜遅く寺に戻っていた。しかし、足が悪いので遠くへはいけず、いつも楓橋鎮のいくつかのところに座って道行く人から物をもらっていた。
と、ある日、早起きした屈さんは、今日はいつもと違ったところに行ってみようと思い、悪い足を引っ張りながら寺を出たが、なんと寺の前の道端になにか落ちているのを見つけた。
「なんだ?こんなところに?」と屈さんが拾ってみると、それは緑色の財布で、手で振ってみるとじゃりじゃりという音がする。そこであけてみたが、なんと銀貨が二百枚以上も入っていた。
「うへ!金持ちは誰だい?こんな大金を捨てるとはあきれたね。おいらには一生かかってもこんな大金は手に入らないよ。そうだ!これはここを通りかかった人が落としたに違いない。おいらは貧乏人だから、大金とは縁がないんだ。それに大金だから落とした人はきっと慌ててる違いない。もしかしたら人の命にかかわることかもしれないからな」
正直者の屈さんはここまで考えると、その財布を持って寺に戻り、この日は出かけるのはあきらめ、この大変な落し物の持ち主が現れるのを待つことした。
こうしてその日も昼ごろになり、朝から何も口にしていない屈さんが、腹が減ったのを我慢して待っていると、一人の商人らしい男がそわそわとなにかを探しているように下を見ながら急ぎ足でやってくるではないか。そして顔を顰め、時にはその場で自分の胸を叩いたり、頭をなぐったりして悔しがっていた。そこで屈さんは、ははあ!財布を落としたのはこの商人だなと思ってその男に声をかけた。
「そこのお人!そこのお人!」
これに商人はいくらか驚いた様子でこっちを見た。すると一人の物乞いが近くの寺の門のところで自分を呼んでいるではないか。何で物乞いが声をかけたのかと不審に思ったが、もしかしてとおもい、急に顔をほころばせて屈さんの側に来た。
「なんだい?」
「あんた、なにかを探しているみたいだね」
「おお!よく知ってるね。もしかしたらあんたが拾ってくれたのでは?」
「ということは、あんた、なにかを落としたんだね?」
「実、実は、大金の入った財布を落としてしまったんだよ」
「財布ね?」
「そう!財布だ!」
「どんな財布だね?」
「緑の財布だ」
「うん、で、中にどれだけ金が入っていたんだね」
「実は、中には今年一年の儲けの銀二百枚あまりを入れておいたんだが!その金を、私が商いするための元金を貸してくれた恩人に返しに行くところだったんだよ。あんたが拾ってくれたのかい?」
「はは!これはいいや。やっぱりあの財布はあんだのだったんだね」
「そうそう、私の財布だよ」
「待っててくれ。いまとってくるから」と屈さんは寺に入ってかの今朝拾った財布を持ってきて商人に渡した。
「さあ、これはあんたの財布だ」
これに商人は声を出して歓び、中をあけて金を調べた。そして金が少しも減っていないで、助かった!と叫んだ後、これは拾ってくれた人への礼金としての決まりだといい、なんと財布の中の半分を屈さんにくれるという。
これを聞いた屈さん、笑って答えた。
「あんたはおかしいね。おいらが金目当てにあんたに財布を渡したのだったら、はじめから財布なんか知らないよといって金を全部もらってもよかったんだよ」
「そういえばそうだが・・」
「だろう?だからあんたの財布を拾ったからと言って半分もらうわけにはいかないよ」
「そうか?」
「それにその金が半分なくなるとあんたの大事なこともできなくなるだろうに、そうだろう?」
この屈さんの言葉に男が感激した。そこで屈さんがいう。
「さあ、速く行ったほうがいいよ。おいらは物乞いでね。朝から何も食わずに腹すかしているんだよ。これから出かけてうまい物でももらってくるよ。さあ。落とした金が戻ってきたんだから、その金であんたの大事なことをやってきな」
「まってくれ。あんたはほんとにいい人だね。これを受け取ってくれないかい。たったの銀十両だが、これであんたの暮らしの足しにしてくれ」
「いやいや」
「そういわないで、うけとってくれ。さもないと私の良心がゆるさないよ。頼む!うけとってくれ!たのむ」
商人がこういうものだから、屈さんは、それはすまないねと、その銀十両を受け取った。これを見て商人は、ありがとうと屈さんい一礼し、走り足で来た道を戻っていった。
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