次のお話し、「閲微草堂筆記」という難しい名前の本から「農民と髑髏」です。
「農民と髑髏」 (田不満)
いつのことかはわからん。ある村に田不満という作男をしているものがいた。田不満は読み書きはできないが、幼いときからお化けなどは信じないし、けんかも強く、怖いものなしで暮らしてきた。
とある日、仕事で遅くなり、夜中になって家に帰ろうとしたが、道に迷ってどうしたことかお墓に舞い込んでしまった。これはいけねえと慌てて足を速めるとどうもなにかを蹴ってしまった。
「いてて!誰だ!人の頭を蹴ったりしたのは!」
これを聞いた田不満はびっくり!そこで目をこすってみると、月の光の下に、髑髏、つまり風や雨にさらされて肉が落ち、むきだしになった頭蓋骨が転がっているのか見えた。これに田不満はおもしろがり、どなった!
「こら!どうして俺さまの行く先の邪魔をしたんだ!」
これには髑髏のほうが驚いた。普通なら髑髏がしゃべりだすと、たいていの人は腰を抜かすのだが、'この男は腰を抜かすどころか、こっちをにらんで怒鳴りつけてきたではないか!
「いえね!おいらが好きでここに転がっていたんじゃないよ。悪い奴がおいらをここに転がしておいたんだよ」
「それじゃあ、俺に文句言わずに、その悪い奴に文句を言いにいけ!」
「しかし、その悪い奴は怖いものなしなので、おいらにはどうにもできないんだよ」
これを聞いた田不満、急に笑い出した。
「なんだと?その悪い奴は怖いものなし?それじゃあ、おれには怖いものがあるってのか!え!言ってみな!もう一度蹴り飛ばすぞ!」
これを聞いた髑髏は急に怖くなりいう。。
「あ、あ、あんたはあの悪い奴よりすごいね。実はあんたを普通の人だと思ってここであんたを怖がらせようと思ったんだ」
「なんだと!?もういちど言ってみろ」
「すまない、ゆるしてくれ。どうかおいらを向こうにある墓穴の中に放り込んでくれないか?こんなこといるとろくなことはない」と急に泣き出した。
これに田不満は、勝手にしろ!と怒鳴っておいて知らん顔していってしまった。もちろん、後ろからはかの髑髏の泣き声が聞こえたが、田不満には、それから家に着くまでは何も起こらなかったという。
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