次のお話です。「子不語」から「新しい靴」です。
「新しい靴」(盗)
謝さんが新しく買った上等な靴を履いて出かけた。しばらく行くと向うから一人の男がやって来て、謝さんの前でお辞儀をし、急に謝さんの両手を握り挨拶し始めた。これに謝さんはびっくり。
「あんた誰かね?これまで一度も会ったことがないが・・」
これを聞いたその男、急に怒り出した。
「なんだい?お前さんは新しい靴を履いたからといて、昔からの友を忘れたのかい!!」
こういい終わると、ふと手を伸ばし、謝さんがかぶっていた帽子を取ると近くの建物の屋根に投げ上げてしまい、どこかへ行ってしまった。これに謝さんは驚き、相手が酔っ払っているのだろうと思ったが、高い屋根の上にある帽子が取れないのでどうしようかと迷っていると、今度も見知らぬ人が近寄ってきた。そしていまの出来事をどこかで見ていたのか、不意に話しかけてきた。
「今の人はひどいね。いたずらするにも相手を見ないとね。あんた帽子がなくては頭に直接陽が当たり暑いだろうに。どうして屋根に上って帽子を取らなのだね?」
「そ、そういわれても、ここらには梯子がないでしょう。梯子がなきゃあ屋根には上がれないよ」
「ああ、そうか。実は私は人助けが好きでね。どうです?私が肩を貸してあげるから、私の肩に乗ってから屋根に上がれば?」
「そ、それはすみませんね。初めて出会うあんたにそんなことまでしてもらうとはね」
「遠慮することはありませんよ。さ、肩に上がってくださいな」
そこで謝さんが、しゃがんで差し出したその人の肩に上がろうとすると、その人が怒り出した。
「なんだい、なんだい!あんた土足で私の肩へ上がろうとするのかえ?いくらなんでも失礼だよ。あんたの帽子は大事だが、私は上着も汚したくはないからね」
「おお!これは失礼。靴を脱ぎますよ」
こういって謝さんは新しい靴を脱いで、その人の肩に上がり、その人が立ち上がったので、やっと帽子がある屋根に上ることができた。
「おお、これで助かった」と謝さんが帽子を取って下を見ると、なんと肩を貸してくれた人はそこにはいなかった。それに買ったばかりの靴もどこにもみあたらない。これに謝さんはあわてて叫ぶ。
「おーい!誰か来てくれ!このわたしをここからおろしてくれ!」
これを聞いた道行く人々、こんな昼間から屋根に上がって叫ぶなんて、どうせふざけてるんだろうと思い、しばらくは誰も相手に押しなかったそうな。
へー?新しい靴を騙し取るにも、これは変わったやり方ですね。
そろそろ時間のようです。では来週またお会いいたしましょう。
|