こうして正徳帝はまもなく無事に都にもどり、いつもの暮らしに戻った。そしていつものように宮殿の食事をしたが、どんな山の幸と海の幸を食べても、味がない。そこでどうしてもあの日のお粥と貝の漬物がほしくなり、厨房に同じものを作るよう言いつけた。しかし、宮殿の厨房人たちはこれまで「真珠粥と鳳の眼」という料理を耳にしたことがないので困り果てたが、そこは皇帝の言いつけなので、皇帝の供として付いて行ったかの側近に料理の材料を聞いた。しかし米はあるがかのこの麦螺鮭(まいろーくえい)という小さな貝がない。仕方がないので、ある武官をやって早馬を飛ばし、南の福建に赴き、この貝を手に入れると同時に、正徳帝に粥などを食わしたというかの蘇という老人を訪ねた。これを聞いた老人はあのときの書生が皇帝だと聞いてびっくり。しかし、皇帝があのときのものをひどく気に入り、いまも食べたいと宮廷の厨房人に命じ、厨房人たちが困ってきると聞いて大笑いしたあと、この武官にいう。
「あの時は皇帝さまはかなり疲れなされ、またお腹をすかしていられたようでござる。実は粥と貝のお漬物は大したものではなく、空腹であれは何でもうまく食べられるものでござるよ」
これを聞いた武官はさっそく貝を持って都に帰り、このことを皇帝に告げると皇帝は怪訝な顔をして、さっそく厨房に「真珠粥と鳳の眼」を作らせ食べてみたところ、うまいはうまいがあのときのようなうまさは感じなかったという。
そこで正徳帝、「かの老人の言うことには間違いない」といい、また武官にもう一度老人の家に向かわせ、かなりの褒美を与えたという。
そろそろ時間のようです。では来週またお会いいたしましょう。(林涛)
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