これを見て自分の運が来たと思った夏さんはこれを基に大きな商いを始めた。つまり、その年に夏さんは五十八になったからである。そしてそのときから、かの巫女のいうとおりに、苦労しなくても金がどんどん入ってくるようになった。そこで夏さんは、父の言葉とこれまでの苦労を忘れず、多くの貧しい人たちや困っている人たちを助けた、それにいくら出しても惜しいとは思わない。これをみた妻が、少しは子供や孫には残しておいたらというが、夏さんは「なに。これから金はどんどん入ってくる。わたしに運が回ってきたのだ。あの巫女の言うとおりだった。良いことをするのに金を惜しむのはよくない。ケチればわたしの運は過ぎ去ってしまうかもしれないぞ」といってケチなことは少しもしなかった。
ところで、かの夏さんのことを役所に告げたとなりの昆さんも、そのときは物貰いになれ果てていた。しかし、かつて夏さんに悪いことをしているので、助けてくれとは口に出せない。これを知った夏さん、昆さん夫婦が住まいとしているぼろ小屋にきて、幾つもの銀塊を昆さんに渡して言う。
「何を遠慮しているのかね。あの時、わたしの運はまだ回ってきていなかったんだよ。だから、神があんたの口を通じてわたしのものでないものを持っていったまでのことさ!さ、これでうまいものを食べ、さっそく住まいでも建てなさい。こんなところでいつまでも暮らしているわけにもいかないだろうに」
これを聞いた昆さん夫婦、涙を流して礼を言った。これをみた夏さん、家に帰り妻にいう。
「金があっても良いことをすれば、人に喜んでもらえるし、気持ちがいいね」
これに妻も頭を縦に振り、ニコニコしたという。
こうして夏さんは妻と共に九十歳近くまで生き、子供たちもその財産を受け継ぎ、またよいことをしたので、夏さんの子孫もかなり裕福に暮らしたという。
そろそろ時間のようです。では来週またお会いいたしましょう。
(林涛)
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