「なかなかむずかしいことですな。では占い賃として百銭貰いましょうか」
そこで夏さんは、懐から百銭取り出し巫女に渡した。すると巫女は銭を小さな木の箱に入れ、箱を手にして位牌の前に跪き、箱を揺らしながら何かをつぶやいたあと、箱の中の銭を前の小さな机ににばら撒いた。そして銭を一つ一つ指差したあと何か考え、夏さんに聞く。
「あんた、今年幾つになるね?」
「二十八です」
これに巫女は頭を横に振り、「まだまだ若い。あんたは、今のは自分の運じゃなかったんだよ。あんたは五十八になってから自分の運にめぐりあえるのさ。そのときになれは、何でも思ったように行くはずだよ」
夏さん、これに不審を抱き聞く。
「今のは自分の運じゃないというけど、いったい何のことですか?」
「うん、はっきり言わしてもらいましょうかね。あんた、親か誰かに他人には褒められないことをした人はいないかね?」
「え?あの・・実は父がどら息子で、祖父の蓄えを無駄にしてしまいましたが・・」
「だろうね。つまり、あんたはいま親父さんの悪い運を引き継いでいるんだよ。もし、親か誰かがよいことをし続けていたなら、その息子はよい運に恵まれる。しかし、そうでなけりゃあ、息子は悪運を暫く受け継ぐということさ」
「ではわたしが五十八になれば、運がよくなるということですね」
「そういうこと」
「でも、それまであと三十年もありますよ?それではわたしは老いたときになって初めて運が回ってくるということですかね。それじゃあ、わたしが棺おけに入るときとは近い」
「なにをいうかね。なにしろ、あんたが五十八になれば、大きな富が手に入るというもの。それに簡単に入るのだからいいじゃないの?それにあんたこれまで不届きなことはしていないみたいだから、そのときになってから末永く幸せに暮らせるワイ。安心しなされや」
こうして夏さんは半信半疑で家に戻ったが、それからはまたも野良仕事に励み、変なことはしなかった。
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