「そのキツネが山の南で人に危害を加えているとはほんとかね」
「あんただったんだね。実はうちの旦那さまがあんたを探しているんだよ。うちのお嬢様がその悪いキツネに憑かれ、ひどく衰えてしまいなされてね。どうか、お嬢様を助けてくださいよ。旦那さまはきっとお礼をするとおっしゃっておられるし」
「いや、いや。お礼はいいが、あのキツネが悪さをしているは許せないね」
ということになり、この農民は下男たちについて金持ちの家に来た。
そこで金持ちがいう。
「これはこれは、お待ちしてましたぞ」
「ほんとに、あのときのキツネが化けてお嬢様をくるしめているんだべ」
「娘が言っておるので間違いないと思います。人を助けると思って何とかしてくださいな」
「それでは、試してみましょう。もし、あのときのキツネじゃなきゃあ、どうにもならんけど」とこの農民は、その日は金持ちの家に泊まった。
さて、夜半になったころ、農民は金持ちと言い合わせたとおり、起き出して庭に出ると娘の部屋の様子を伺った。すると部屋の中から娘の声のほか、若い男の声がする。
「うん?これがキツネが化けた男の声か。あのキツネかどうかわからんが嚇かしてみるか」との農民が部屋の戸を蹴り開け「この泥棒キツネめ!懲らしめてやる!」とあの時叫んだのを大声で繰り返した。
こちら部屋の中のキツネ、これにびっくり!それにこの声に聞き覚えがあるので急に恐ろしくなり、床の上から地べたに落ちた。これをみた農民は、「あの時うまく逃げられたが、今日こそは逃さんぞ!殺してやるから覚悟しろ」と叫ぶ!
これを聞いたキツネは元の姿に戻り、逃げるのも忘れて地べたに頭をつき、殺さないでくれと一心に頼んだ。
そこで農民は、人を殺したわけでもないので許してやるかとおもい
「速くどこかへいってしまえ!今度お前の姿を見たらきっと殺すからな!覚えておけ!」と嚇かすと、キツネは悲鳴を上げて屋根に飛び上がり、どこかへ逃げていったという。
それからというもの、ここら一帯にはキツネは化けて出たりはせず、キツネもいなくなったという。
え?農民?もちろん金持ちから随分お礼を貰ってニコニコ顔で家に戻ったワイ!
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