さて、暫く馬を走らせると、前を行く老人たちの姿が見えた。そこで馬に鞭を当てて刑徳は老人たちの前へ行き馬を止めるとくるりと振り返り、弓矢を取り出して老人を狙った。すると老人は少しも慌てず、腰を曲げて左の靴を脱いで笑った。
「ははは!おまえさん、何をしようというのじゃね?このわしを知らんのかね?」
これに刑徳は答えず、すばやく矢を放った。しかし、老人は何事もなかったかのようにわずかに体をうしろへ傾け、靴を脱いだ足を上げて、なん、刑徳が放った矢を足の指で挟んで受けとめたではないか。これに刑徳は驚いた。そこで老人が言う。
「そんな子供だましの技に答えるには、このわしでは大げさすぎるのう」
これを聞いた刑徳は、顔を真っ赤にして、よし、みてろと得意の技を出し、シュッ!シュッ!とものすごい速さでいくつかの矢を続けて放った。すると老人は飛んできた一本目の矢を右手でつかみとり、二本目の矢を防げなかったかのように、なんと乗っているラバから落ちた。
「やった!」と刑徳は喜んだが、よくみてみると老人は地面に倒れながら二本目の矢を口にくわえ、すばやく飛び起き刑徳にいう。
「なんと、お前さんはわしとは初対面だというのに、礼儀というものを知らんなあ」
これに刑徳、びっくりして怖くなり、自分は老人の相手ではないと悟り、これはいかんと逃げ出した。
こうして刑徳は数十里も馬を走らせたころ、ちょうど役所の金を護送する人々に出会ったので、己の弓矢に頼ってなんと銀一千両を奪った。こうして刑徳がホクホク顔でいるとき、後ろから蹄の音が聞こえてきた。
「うん?誰だ?」と刑徳が後ろを振り返ると、なんとさきほどの老人に供をしていたやまあらしのようなに髪の毛を生やした子供が老人のラバに乗ってこちらにやってくるではないか。
「そこのもの盗り!どこへ行く?今奪ったものをおとなしく半分置いていけ」
これを聞いて刑徳は怒った。
「何をこしゃくな!お前はわしの弓の腕を知っているのか?」
「ふん!さっき見せてもらったよ。それがどうした?」
|