この餓鬼が、生意気なと怒った刑徳は、子供が何の得物も身につけていないのをみて、ここで餓鬼を驚かしてやろうと、すぐさま弓を引き、瞬く間に三本の矢を放った。ところがこの子供は三本とも手で掴んでしまったので刑徳はびっくり。そこで子供はいう。
「こんなもの貰っても仕方がない」
こういって子供は、手首にはめていた小さな鉄の輪をはずしぐるぐる回して「ほら!ほら!ほら!」と刑徳めがけてものすごい速さで投げてきた。こちら刑徳はあわてて飛んできた輪を弓で止めたが、バキッという音がしてなんと弓が真ん中から折れてしまった。これには刑徳、化け物が現れたかように怖り、そのすぐあとに自分の放った三本の矢を子供が自分めがけて投げ。ものすごい速さでヒュー!ヒューと左右の耳をかすめた。これに刑徳は気を失ったように馬から落ちてしまった。そこで子供は近くまで来て、まずは鉄の輪を拾い、それから馬の鞍に掛けてあった銀一千両が入った袋を下ろして肩に掛けようとした。このとき刑徳が気がつき、起き上がってそれを止めようとした。しかし、子供は刑徳が気がついて起き上がったことを察していたかように、急に振り向くと一蹴りして刑徳を倒してしまった。そして金の入った袋を持ってラバに乗せ、自分もラバに飛び乗り、刑徳に言う。
「お前みたいな技じゃ。誰も倒せないよ。じゃあ、これで」と言い残し、どこかへ行ってしまった。
これに呆然としていた刑徳は、我に返ると傷ついた体を引きずるようにして馬に近づき、やっとのことで馬に乗って自分のふるさとに帰っていった。
このときから、刑徳はこれまでの怖いものなしという考えをまったくなくし、急に人には親切になり、おとなしく小さな商いを始めたという。
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