こう言って誰かが戸を開けて応接間に入ってきた。すると消したはずの明かりがひとりでについた。これをみた梁の上の何さん、驚きのあまりもう少しで声が出そうになった。それは背丈が十尺あまりの目玉が馬鹿に大きく、黄色い服をまとったものだった。そのものは部屋の中をいぶかしそうに見ていた。実は何さんは、剣術の師匠からある術を学び、これを使うと自分の気配を相手に気づかれないという
そのあと今度は同じように眼が馬鹿でかく青色の服をまとったものと、白い服をまとったものが部屋に入ってきた。そして卓上に残された徳利と杯をみて眼を細めた。
「誰か先ほどまでここにいたようだな」
「おかしいのう。確かに誰かがいたが、気配も匂いもなくなっておるぞ」
「ふふふ!夜半になって怖くなり、逃げ出したのかもな」
「うん!そうらしい。ところで、黄色い服のおぬしはいったい何者だ?」
「わしか。わしは金だ」
「どこにおる?」
「庭の西の壁の下だ。そういう白い服のおぬしは?」
「わしか。わしは銀だ」
「どこに隠れておった」
「庭の井戸の近くの土の中だ。で、青い服のおぬしは何者だ」
「拙者か、ふふふ!拙者は人参だ」
「人参?ほーう!で、昼間はどこに隠れておる?」
「ああ。わしか。わしは台所の下のかごの中だ」
こういって三人のもの言葉を交わした。
これを梁の上で聞いていた何さん、何だ?と思ったがやはり息を殺しそのままでいた。やがて三人は「ここには誰もいないようだ。もし見つけたらひどい目にあわしてやったのに」などといいながら部屋を出て行った。しかし、何さんはそのあとも暫く梁の上でじっとしていた。
やがて夜が明けたので、何さんが剣を抜いてまずは自分が耳にした通り、庭の西の壁の下を掘ってみると、なんと甕が出てきて、その中には金が詰まっている。次に井戸の近くの土を掘ると、同じく甕が出てきて銀が入っていた。そして台所の下のかごにはごつごつした人参が入っていた。
「ははは!あの化け物たちはこれだったのか。自分たちが奪われるのを恐れて災いをこの屋敷に住む人々に加えたのだな。けしからん」
こうして何さんはこれら金銀を持ってきた袋に詰め込み、人参は気味が悪いと火で燃やしてしまった。このときから、この屋敷では災いは起きなかったという。
でも、肝っ玉の太い何さん、儲けましたね。
そろそろ時間のようです。では来週またお会いいたしましょう。
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