今日のこの時間は、清の怪異小説集「聊斎志異」から「弓術」というお話をご紹介しましょう。
「弓術」
いつのことかわからんが刑徳という男がいた。刑徳は幼いときから弓を習い、自分もいろいろ工夫し、かなり上達したので、刑徳にかなうものはいないとまで言われた。しかし、運が悪いというのか、刑徳は弓を使って食べていける仕事が見つからず、人から金を借りて商いをしても損ばかりし、豊かな暮らしは出来なかった。で、刑徳には友が多く、どうしたことか、刑徳の弓の腕を頼みに町の商人たちがしばしば用心棒になってくれと頼みに来た。
と、ある秋、刑徳は一人の商人の用心棒をしたあと、かなり金をくれたのでこれで商いをしようと思い、易者にこれからは儲かるかどうかを占ってもらった。そこで易者はいう。
「ふん、ふん!これから商いと始めようとされるとね。うん、しかし、あんたの商いは、・・・実を言うと儲かりはしませんぞ」
「え?儲からない?」
「そう。が、たいした損はないでしょうな」という。これを聞いた刑徳、家に帰って不機嫌な思いでいたが、貰った金を返すわけにもいかないので、仕方なく、金を持って旅に出た。で、目的地に着いたが、どうも事がうまくいかず、ものを買って半分金を残し、面白くないので気晴らしに馬を借りて郊外に出かけた。かなり行ったところに酒屋を見つけたので、馬を下りて店に入った。そして酒を注文し、適当なつまみで飲んでいると、角の席で一人の老人と二人の少年が酒をのみ、その横にやまあらしのように髪の毛を生やした子供が立っていた。注意してみると老人と少年の身なりはよく、「これはかなり持っておるな」とみた刑徳は黙って老人らの様子を伺っていた。しばらくして老人らは飲み食い終わり、銭を卓において店を出て行った。そこで刑徳が窓から外をみると、少年が馬小屋からラバを引いてきてそれに老人がのり、やまあらしのような髪をした子供が痩せた馬に乗って老人のあとを追い、二人の少年がそれぞれ弓矢を背負い、馬に乗りそれについていく。これをみた刑徳は、急に金がほしくてたまらなくなり、自分は弓の名手だと思って、さっそく杯を置くと小銭を卓上において店を出たあと、自分も馬で老人たちのあとを追った。
|