「いや。師匠さまの描き方はうまいのは当然だ」
「じゃあ、どうしたっていうんだよ」
「いやね。この花瓶はうまく描かれているけれど、なんか物足りないんだよ」
「なにが?」
「だって、師匠さまは、花瓶を書かれてからはいつも一本の花を挿されるだろう?」
「う~~ん。そういえばそうだな」
「だからさ、花が挿してないということは、師匠さまが急いで出かけられるので、忘れられたのか、または帰ってこられてから花を足されるのかもしれないんだ」
「うーん。そういうこともあるかも知れないけど。さっき師匠さまは出かける前にじっとこの絵を見ていられたぞ」
「それはそうなんだが、忘れられたのかもそれないぞ」
「そうかな??」
「そうだと思うんだ。忘れておられなくても、帰ってきてから花を足すおつもりなんだと思う」
「お前は自分勝手なこと考えてるんじゃないか?」
「そんなことはない。私は師匠さまのことを思って言ってるんだ」
「だから、お前が師匠様の代わりに花を描いておこうというのか?」
「そのとおり」
とこの弟子は早速筆をとり、その花瓶の口に赤い蓮の花を描いた。
さて、夜になって酒を楽しんだあと師匠の孫知微が気をよくして帰ってきた。そして午後に描き残した絵をみてみると、なんと童子の手にした瓶に花が描かれている。これを見た孫知微がそれまでの顔色を急に変えた。
「なんということだ!誰がこんなことをしたんだ。これは蛇に足を書き加えると同じだ!この絵は台無しになったぞ!これこそ、うまくやろうとし返ってことを悪くしたというもの。この童子の手にする宝の瓶が、つまらない普通の瓶となったのだぞ!全くの笑い話だ!本当にばかばかしい!なんということだ!」
師匠の孫知微はぶりぶり怒り、絵をわしづかみにすると、その場でびりびりと破って捨ててしまったわい。
これを見た弟子たちはびっくり仰天。その場に立ち尽くして呆然となり、また、勝手に瓶に花を描いた弟子は、真っ赤な顔してうなだれてしまったという。
上手にやろうとし、なんと返ってしくじってしまい、叱られたのですからね!!ホント。
そろそろ時間のようです。ではまた来週。
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