これには馮・給事と厨房人たち、いくらか驚いたが、違うところは出来たあんまんを油で揚げたことに過ぎないと思った。しかし、老人がわざわざこの屋敷にまで来て作ったのだから、一応は食べてみないとと思い、さっそくあんまんがのった大皿を応接間に持っていき、まずは馮・給事が味見にと箸を取った。
そしてあんまんを摘もうとして老人の方を見ると、老人は角にある椅子に座り、うまそうにお茶を飲みながら、ニコニコ顔で馮・給事を見ながら、どうぞ召し上がれと言わんばかりに首を軽く振っている。
そこで、馮・給事は揚げたあんまんを一つ摘んで先に匂いをかいで見た。するとなんともいえない小麦粉と小豆の香ばしさが鼻から頭にのぼり、目がくらむほどであった。
「これは」と思った馮・給事は、摘んだあんまんを一口食べる。すると中のふわふわ饅頭とうまさと小豆餡の香ばしさ、それに蒸したナツメの味に加え油で揚げた小麦粉のなんともいえない味が混ざって口の中に広がる。
「うん!こ、これは」と馮・給事は言葉が出ず、知らないうちにそのあんまんを食べ終わっていた。
「これは、これは絶品でござるな。こんなにうまいあんまんは生まれて初めてじゃ」と妻や子供、それに屋敷の厨房人に食べろと勧めた。
そこでみんなが箸を取りそれぞれ目を光らせてその大皿の揚げまんを瞬く間に平らげてしまった。もちろん、みんなはこんなにうまいものが食べられたので興奮している。そのうちに馮・給事は、かの老人の座っている椅子に目をやって褒めようとしたが、なんと、そのときには老人の姿はなく、ただ二枚の紙切れが残されていた。そこで馮・給事がそのうちの一枚を見た。
「給事さま。初めてお会いしたこの老いぼれに気を配っていただき、ありがとうございました。この食べ物の作り方は、もう一枚に書いてあります。わたしめは、これでお暇いたします。実は私は急用が出来てふるさとに帰りまする。もう尚食局にはおりませんから、お探しになっても無駄でしょう。ではお元気で!」
ここまでみた馮・給事があわてて尚食局に人をやったが、かえって来た使いの話しでは、その老人は今朝急用でふるさとに帰ったという、それにふるさとがどこあるのかはっきりわからないという。つまり、昼前にふるさとに帰ると言って尚食局を出て約束どおりに給事の屋敷にきて、揚げあんまんまんをつくったあと、そのまま姿を消したらしい。
「これは残念!」と馮・給事はもう一枚の紙を大事にしまい、その後屋敷の厨房人に紙に書いてある通り揚げあんまんまんを作らせたが、どうしたことが、あのうまさがなかなかでなかったそうな。
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