これを聞いた馮・給事、実はうまいものには目がない人物だったのでこれはいいと思い、老人の求めを喜んで受け入れることにした。しかし、材料はこちらが揃えるといって聞かない。そこで老人は、大きな皿、数十片の木屑、それと浅い鍋、炭火、上等のごま油、干したナツメと小麦粉などがいるというので、馮・給事はニコニコ顔で首を縦にふり、翌日の午後に、この老人に来てもらうことにして、分かれた。
この馮・給事は調理のほうではいくらか知っており、時には屋敷で自ら厨房に入るという人物だったので、老人がどんなものを作ってくれるのか楽しみであった。
さて、次の日、かの老人は約束どおり馮・給事の屋敷にやってきた。もちろん相手は、自分より位はかなり低いが、それでも尚食局の役についているもの。まずは馮・給事はまずは応接間でお茶を出してもてなし、わざわざ来てくれたことに礼を言う。
しばらくして老人がそろそろ始めますかというので、さっそく老人を屋敷の厨房に案内した。もちろん、そこには前日老人が求めたものが揃えられていた。
そして馮・給事と屋敷の厨房人が離れたところから老人のこれからやることを見ている。こちら老人、そんなことは少しも気にせず、まずは、ここの火釜を目を細めながら暫く眺めていたが、不意に持ってきた袋から厨房人の服をまとい、小さな帽子をかぶり、前掛けをした。
そして釜床が平らでないのか、木屑をへこんでいるところに並べた。次に、横にある台に大きなまな板を置き、小麦粉をそこに多くこぼして、それに水とごま油を加えてしっかりこねてから、小さな団子を幾つも作りだした。そしてそれを一つ一つ麺棒で伸ばしてから丸め、真ん中に穴を作ったあと、持ってきた袋から木造の箱を取り出し、元から用意してあった小豆の餡らしいものを一つ一つに詰め込み、それに厨房に揃えてあった干したナツメを入れて丸め込み、小さな饅頭を作って並べた。
ここまで見ていた馮・給事と屋敷の厨房人、これまで老人が特に変わった作り方をしていないので、なんだ?普通のあんまんかとがっかりしていると、老人は釜に火をつけ、先に蒸し鍋でこれらあんまんを蒸かした。そして出来たあんまんがいくらか冷えるのを待って、浅い鍋を釜床の上に置き、それに油を多く敷いてあんまんを揚げ始めた。そして揚げあがったあんまんを一つ一つ大きな皿に並べてから近くにあった大きな卓に置き「さ、出来ましたぞ」という。
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